月光の距離、十二月の少年たち
最終更新:2023/3/5
作品紹介
我々の棲む世界の隣に「扶桑之國(ふそうのくに)」という、小さな島国がある。今から三年前、この島国は旧政府を打倒する革命の内戦を経験した。 この国を三百年に渡って統治した軍事政権が崩壊、王政復古が成し遂げられると革新派が新政府樹立、このため国内では陸海軍を二分した内戦が勃発したのだった。 そんな三年前の出来事が、空に浮かぶ月のように遥か遠くに感じられる。そんな風に永川勝彦は、二十歳を迎える前夜に十代という季節を振り返っていた。 あの新時代の嵐が青春の真っ只中に吹き荒れており、自分たちは懸命に生き延びた。時に剣を提げ、銃把を握っては弾丸雨飛の戦場を駆け巡った。 あっというまにあの時代は過ぎていった。それまでの景色も、出会った人々も、歴史の激動とともにどこかへ消えてしまった。自分にとっての青春とは振り返ることのできない時間なのかもしれない。 それでも勝彦はどうしてもあの二人を忘れることができなかった。自分は彼らに友情を見出したのか、それとも愛を見出したのか。 彌生惣三郎と美堂敬介、もし自分たち三人が共有した青春に色彩というものがあるのならば、それは自分たちが所属した隊旗と徽章を彩った漆黒と真紅、そして三人の間にあった奇妙な色彩だった。 空に浮かぶ月のようにはっきりしていながら決してとらえることが出来ない、あの色彩を今でも覚えている。 全てが変わった今、この色彩だけは、色あせることなく確かに存在している。しかし、この奇妙な色彩によって引き起こされる事件を彼はまだ知る由もなかった。 その色彩が齎した事件の顛末を、ここに記す。
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