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作:夏野けい

正しい遠さで

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最終更新:2021/1/18

作品紹介

三歳までに出会わなければ、わたしはあなたにとって毒になる。 十二歳までに出会わなければ、あなたはわたしにとって毒になる。 突如現れた毒によって、世界には見えない線が引かれた。他人と身内はあきらかだけど、人の心はそんなに簡単ではない。 自由に他者と交わる社会から、限られた身内にしか素顔をさらせない世界へ。長い過渡期に生きる八人の群像。 *** [朝読小説賞用記載] 主人公:(連作短編のため複数。一章より順に) 12歳、32歳、15歳、16歳、28歳、28歳、18歳、26歳 朝読小説賞キャッチ: 他者が毒になる世界。それでも人は繋がりを求め、想いあう。

SF

評価・レビュー

硝子のような孤独に憧れても、どうか、触れあう温度をあきらめないで。

 2020年の春に広がりはじめたコロナウイルスによるパンデミックは、私たちが「あたりまえ」と思っていた日常を一変させました。今までごく普通にしていた、会食、旅行、イベントなどには制限が課され、人々は口元を覆い、触れあうことを控えねばならない。  本作は、そんな「今」に戸惑う方、順応しつつある方、孤独を感じてつらい気持ちになっている方……、いろいろな立場や思いを持つ方々の心に、間違いなく何かを残してくれる作品です。  ウイルスより強力に確実に他者を殺す「呼気毒」。三歳と十二歳という線引きで、人は共に過ごせる相手が決まってしまう。耐性のある相手でなければ、素顔で触れあうことも、本当の声を聞くこともできない。  そんな風になってしまった世界で生きる人々の、願いや想い、孤独と愛を描いた、短編連作の群像劇です。  各章の主人公たちは、年齢も立場も違い、呼気毒に対する向き合い方もさまざまです。一人一人の心情が丁寧に描かれているので、それぞれの抱える悩みや孤独が胸に迫ってきます。  各章は独立した短編として読めますが、細い糸で綴じられるように、誰かの物語が別の物語へとつながってゆく、そんな構成です。  誰かの主観が、他の誰かの視点によって塗り替えられる。誰かの孤独は、他の誰かにとっては憧れ。叶わぬ想いに身を焦がし、あるいは孤独に溺れそうになり、美しく見える死を願いながらも、誰かが灯す光に救われる。  そういった繊細な心の機微が、丁寧でやわらかな文章と瑞々しい描写によって脳裏に広がり、気づけば没入しています。  人によって共感できる主人公が違ってくると思いますが、どの人物も懸命に今を生きていることが伝わってくるので、読後はとても爽やかなものでした。  完結しており、全体の長さも文庫本一冊程度です。ぜひ、ご一読ください。

5.0

眞城白歌