ある日の共和国陸軍兵器開発構築本部、あるいは魔女の日常
最終更新:2015/10/12
作品紹介
ある商人は国の支配者に言った。 「あの魔女の要求を拒んではなりません」 しかし支配者たちは言った。 「法に依らねば国が成り立たない。一個人の我儘だけを聞くわけにはいかない」 「そんな道理のわからぬものは放っておきなさい」 商人はしれっと返した。 「私の富を見なさい。私の成功を見なさい。すべては魔女のおかげです」 なおも言い募る支配者たちに商人は決断を迫った。 「魔女がこの国に居る限り、この国の繁栄は約束されるのです。もし魔女を排斥するというのであれば、私もこの国を捨てましょう」 魔女の件はともかく、商人に逃げられるのは困る。支配者たちは折れた。商人の弁については半信半疑なものが大半であったが、商人の言ったことは驚くべきことに事実であった。 それから半世紀。 魔女は小銃弾の生産数の桁をみっつよっつ増やし、自己緊縛軽量砲を開発し、アルミヘッドの直噴ディーゼルエンジンを量産し、真空管の不良率を押し下げた。 駆逐艦は6万馬力の蒸気タービンで35ノットを出し、戦闘機は音速を超えた。 商人はやがて老いたが、死ぬ間際に、病をおして支配者たちのもとに最後の念押しに訪れた。 「けして魔女を粗略に扱わぬよう…」 それが25年ほど前。この話を聞いた宇宙人は思った。 「それってどこの座敷童だよ」
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