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作:香竹薬孝

白狼姫 -前九年合戦記-

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最終更新:2022/1/16

作品紹介

 平安時代後期、陸奥の地の覇権を巡り、12年に及ぶ熾烈な合戦が繰り広げられた。  後に前九年合戦と呼ばれるこの大きな戦乱の中で、官軍将兵らを最も恐れさせ、そして心を奪った女武将がいた。  或る者曰く、美しき白狼の姫君。また或る者曰く――血肉を喰らう人狼、と。  それを討たんとするは、後に軍神と呼ばれる一人の若武者。  戦いの中で彼らはいつしか惹かれ合い、愛し合うようになるが、やがて二人の運命は悲劇的な結末を迎えることになる――。 (モチーフ:白糸姫伝説(岩手県)、金売り吉次伝説(宮城県他東北各地))

歴史・時代陸奥安倍氏羽州清原氏奥州藤原氏源義家前九年合戦

評価・レビュー

凄絶な戦いの傍らで、深山竜胆のような人情が咲く歴史作品

 陸奥国で起こった前九年の役、東北地方に伝わる白糸姫伝説と金売り吉次伝説を題材に描かれた、合戦と恋の歴史物語。執拗に繰り返され、長きにわたった戦の悲惨さや凄絶さがありつつ、敵陣営なのに恋に落ちてしまった男女の切なさや、ささやかな平穏に満ちた陸奥国の姿が丁寧に描かれています。  作品タイトルの白狼姫こと、陸奥国の勢力・安倍氏の末娘である一加は、勇ましくも繊細な面を持った姫君。敵である源義家と恋に落ちてしまう彼女は、長い戦いへ身を投じ、義家とも戦場で会敵することに。義家との恋で女性らしさや可愛らしさを覗かせますが、戦へ臨む際には心の揺らぎと覚悟を見せてくれる、可憐ながら凛然として美しい女性です。  一加と恋に落ちる源義家は、爽やかで明朗な好青年。武家の御曹司として将来も見込まれている彼ですが、真っ直ぐすぎるが故に、戦の中で渦巻く陰謀に苦い思いを味わってしまいます。  周囲に翻弄されながらも、ただ逢いたいと願い進む健気な二人の行く末が、一つ目の見所です。  二つ目の見所は、謀が渦巻く合戦や駆け引き。登場人物たちの戦に臨む姿と普段の姿、そう変じる過程、抱く思いが浮き彫りとなり、いっそう入れ込んでしまいます。また、敵味方を問わず、良くも悪くも身内への情の深さが窺える描写が多々あり、もっと登場人物たちを身近に感じさせてくれます。  ただ平和を願い、平和を勝ち取るために動く者。野望に目を光らせて動く者と、混沌の情勢を駆け抜ける戦士たちは恐ろしくも魅力的です。戦場を駆け抜けた者たちがいかに戦って散り、いかに生き延びて新たな生を歩いていくのかは、一見の価値あり。  一加と義家を始め、登場人物たちがどんな結末を迎えるのか。前九年の役を知っている方も知らない方も、ぜひ見届けてください。

5.0

葉霜雁景