フロンタル・メティスの幸福
最終更新:2022/3/5
作品紹介
ナノボットによって、意識活動の恒常監視が実現した未来。 そこでは、脳内麻薬の分泌量が“幸福”として定義されており、生産した幸福の分だけ社会的地位を得られる時代が到来していた。 公開処刑で評価を稼ぐ青年・シャルルは、ナノボットの力によって、意識を失ったまま日々の“仕事”をこなしていた。 意識が無ければ、罪悪感も無い。罪悪感が無ければ、他人の不幸に鈍感でいられる。シャルルにとって、公開処刑は単に実入りの良い稼ぎ口に過ぎなかった。 あの日、再び罪の意識に目覚めるまでは── ©2021 庚乃アラヤ
評価・レビュー
ハードボイルドSF in ディストピア
管理された幸福に染まりきった社会で、人々に嗜虐性の高い快感を与える、非道な道化を演じることで生き永らえてきた主人公。己の余計な罪悪感や感情を余計とすら感じる彼は、だが社会を震撼させる犯罪に巻き込まれてその謎に迫るうちに、自己のあり方を見つめ直し変貌していく。 こう書くと滅法お堅く思えるかもしれませんが、万事にシニカルで自分自身も突き放した主人公のキャラは徹底してて、いっそ爽やかなほど。そんな彼が様々な人との出会いを通じて変化していく様がまた、清々しいほど痛快です。 ディストピア管理社会に抗う物語は数ありますが、テンポの良い一人称で進められる文章で、次の頁をめくる手が止まらない。味わいあるハードボイルドSFです。欲を言えば五割増しぐらいの文章量で読みたかったというのはワガママかな! スカした男のイカした生きざま、是非ご一読下さい!
武石雄由
こういう文章、こういう物語が書きたいと思った。
作者の筆力にジェラシーと憧れを覚えた。軽妙な語り口から、人の幸福、尊厳、自由意志などのテーマが流されてくる。脳の支配、公然的な殺人ショー、それが娯楽とされる社会。煉獄に囚われる主人公。起きてるのか寝てるのか、意識的なのか無意識か。主人公、シャルルの行く末は…… あと、作品内で引用されたヴィクトール・E・フランクル「夜と霧」。個人的にすきな本でして、まさかの偶然という喜びを噛み締めてます。 あとあと、作者さんは絶対FC好きでしょう? わかります、わかりますよ……ええ……
弦家