霊の謳
最終更新:2021/11/26
作品紹介
柊 劉兎(ひいらぎ りゅうと)は、死んだ。 「お兄さん……死んじゃったんですか?」 大学二年生の秋、劉兎は不慮の事故に巻き込まれて死んでしまう。 野次馬に何度も話しかけ、無視される毎に募る死の自覚が累積する中、ある女子高生が手を差し伸ばす。 「実は私もなんですよ」 えっ? という間に劉兎の頬には斬り傷が入り、女子高生は目の前で爪が伸びる異形へと様変わる。 幽霊になってまで化け物に追いかけられる劉兎は、その女子高生が『小人』と呼ばれる幽霊だと知り、悶え苦しんだ。 幽霊になって間もなく、劉兎は二度目の死を間近に感じ、足掻き、抗った後に彼の身体は『霊力』という力を発現させた。 反射で女子高生を殴り飛ばした劉兎の拳には、琥珀色のオーラが纏われていて、ぐちゃぐちゃになって落ちてきた女子高生だったものが、薄い目で睨んでいた。 間もなく、彼も意識を落としてしまう。 「起きた?」 けれども、意識を取り戻した劉兎が見たのは、傷んだ灰色の髪の毛を拵える萌葱(もえぎ)と呼ばれる女性。 そして、その背後には、白髪で背筋が伸びた幸太郎(こうたろう)という老人が立っていた。 突然の事で警戒心を丸出しにする劉兎に対し、萌葱と幸太郎は微笑みながら劉兎に進言する。 「君に、この悪霊退散会に入って欲しい」 幽霊達の世界『霊界』に住み、悪霊を退治する組織『悪霊退散会』。 生前、ただの大学生として生きてきた劉兎は、当然ながら人の形をしたモノを殺すのに抵抗がある。 「嫌なら、逃げてしまえばいい」 そんな言葉が心から漏れ、後ずさる感情が後ろ髪を引っ張る中、劉兎は言った。 「入ります」と。 これは、幽霊として悪霊を倒す仕事に就き、葛藤しながらも個性豊かな仲間達と成長していく青年の物語。 ©️2020 白黒飴