幻想再帰のアリュージョニスト
最終更新:2024/4/1
作品紹介
誰もあなたの言葉を理解できない。 隣の友愛、目の前の憎悪、そして自分でさえも。 文脈と権威に縋ろうと、飾り立てた借り物が心に届くことはない。 それでも理解を求めるとき、対話は互いの既知を利用する。 自明の参照と引用、暗黙の了解と引喩。 未知の言葉はそこになく、あなたは安らぎの中で相互理解の夢を見る。 幻想再帰のアリュージョニスト。 合わせ鏡に理想の像、反射するのは無限の試行。 永劫の果て、理論上の世界平和は達成される。 いつか、必ず。
評価・レビュー
あらゆる引用が、主人公と、サイバーカラテを物語にする
主人公は、隻腕のサイバーカラテ使いシナモリ・アキラ。 そしてもう一人の主人公が、駆け出しの修道騎士 兼 言語魔術師アズーリア・ヘレゼクシュ。 この作品は徹底して、引用の物語です。 神話や伝承を引用して強くなる。強そうなものを引用して強くなる。たくさんの意味を引用して強くなる。 そうやって引用すること、引用されることが力になる、というのがこの作品の根幹をなしています。 この作品は、第一章を読んで文体の軽妙さ、そして描写の丁寧さなどを感じ取ってください。 第二章の呪術バトルから、ぐいぐい引き込まれてハチャメチャで心躍ります。 そして第三章の「3-30 その名はサイバーカラテ」がめっちゃエモい。最高。この作品はこのためにあったのか、と思うぐらいに打ちのめされました。 以下のURLを参考にしたほうが分かりやすいかも。 https://orangestar.hatenadiary.jp/entry/20140911/1410362782
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荒唐無稽でありながら、深遠玄妙な究極の思弁ファンタジー
シェイクスピアはその戯曲『ハムレット』の中で、 「芝居というものは、昔もいまも、いわば自然に対して鏡をかかげ、善はその美点を、悪はその愚かさを示し、時代の様相をあるがままにくっきりと映し出すことを目指しているのだ」 と語った。 幻想再帰のアリュージョニストは異世界転生ものではあるが、その物語は単なる空想活劇ではない。 この物語を支えるのは、徹底したリアリズムだ。 作者の最近氏の該博な知識と、圧倒的な文章力によって描き出されるアリュージョニストの世界を支配するのは、呪術という異界のシステムである。 だが、この呪術を通して明らかになるのは、普遍的な人と社会の営みだ。 この物語で描かれる世界と人間は、そのタイトルの通り私達の現実世界の引喩(アリュージョン)なのである。 シェイクスピアが語ったように、鏡のようにくっきりと読者である私達の時代の様相を映し出す。 この最高の思弁小説をどうぞ御一読あれ。
竹尾練治