星屑のスピカ
最終更新:2021/12/8
作品紹介
青春時代のほろ苦い思い出は、天体観測もどき。10年後、あの放課後をともに過ごした彼から連絡が来た。クリスマス一色の喫茶店。久しぶりに会った彼は「星屑を売ろう」という起業の誘いをしてくる。知られざるファンタジックな世界の仕事に触れていき、私は心が澄んでいく。「もう少しだけ一緒にいたい」言えなかったあのひとことを今度はちゃんと言えるのだろうか。 !special thanks! 表紙:雪乃かぜ( https://estar.jp/users/418511259 )さん ジャンル改正しました(2023.4.12) 改正前:現代ファンタジー ↓ 改正後:恋愛ファンタジー
評価・レビュー
たとえば紅茶に入れるのに、砂糖より甘いものがあるとしたら
主人公・ミラは星空に憧れていたが、入学した高校に天文部はなかった。教室で駄々をこねる彼女を見かねた同級生の男子・清水の提案か、それともミラがどうしてもと主張したのか、ふたりは冬休み直前のある夜、ふたご座流星群を観察するため校舎に忍び込む。 もどかしいことに、その時はどちらも胸の内を言い出すことが出来なかった。そうして10年以上経ってしまったところから物語は始まる。 現代ファンタジーとして恋愛は珍しくはない。だがアラサーになった男女の、おそらくラストチャンスであろう恋愛事情を、これほど爽やかに描いている作品はそう多くないだろう。 ふたりの恋はかつて、「ふたりきりで夜の校舎に忍び込む」という、告白にはうってつけの大きな機会を逃してしまっている。その為にどうしても、いちど高校生だったあの日に戻ってやり直す必要があった。地球上だけれど時間の離れた場所にいる、というアミツカイ達を訪れたのも、星屑のスピカによる必然的な導きだったのかも知れない。 この作品の特徴はやはり、透明感すら感じる乙女な雰囲気――肯定的な意味と理解していただきたい――であろう。それは紅茶に入れた星屑のようにミラと清水のファンタジーに合っているし、ならばこそ「星屑のスピカ」という乙女座に因んだネーミングに結びつくのだろうから。 ぜひ読んでいただきたい一作である。 はやくもよいち
はやくもよいち
広大な星空の下、寄り添うふたりの心
同級生に告白するチャンスを逃したミラ。かつての思い人を思いきれないままに10年が経った頃、その彼(清水)から呼び出される。 ここでかっこ悪くなっていてくれたらいいんですが(笑)、当然素敵になっていてパールのネックレスまでしている。軽口を言いながら「仕事の話かよ」ってむくれるミラが思い浮かぶようでした。 そして話は急展開。仕事場というのが同じ地球にある違う空間。この描写がすばらしく、広大無辺な星空のなかにいるような気がしました。読んでいるときに感じたひんやりとした空気はきっと星たちが瞬くときに起こる風だったのでしょう。清水とアミツカイ族の子たちが遊んでいるのははるか遠く、点にしか見えないのに、急にレナに話しかけると、等身大になっている。なにか収縮拡大が自在な世界にいるようなです。 アイテムも星くず成分の惚れ薬とか天使のパールとか、もう本当にかわいらしい。 読んだ後に夜空を見上げたくなるようなお話でした。冒頭と結末の呼応もいいですね。 素敵な作品をありがとうございました。
しのき美緒@BEKKO BOOKS