Dearest.最愛の君よ、星屑の向こうで待つ
最終更新:2021/1/12
作品紹介
恒星間抗争の終わった惑星に暮らす傷痍軍人イヴァンと少女スノウ。 イヴァンは、戦火により顔の半分と身体の自由を失い、スノウは、戦争によって身を売ることを強いられる夜を過ごす。 2人は、イヴァンの「落としもの」をきっかけに、ある日出会い、共に旅に出ることとなる。 イヴァンは自分の失った記憶を求め、スノウは自身を傷つけた忌まわしい記憶を消すべく虚空を彷徨う。 果たして、自分の「最愛の人=Dearest」はどこにいて、それはいったい誰なのかを求めつつ。 旅の各所に潜むのは、終わったはずの戦争の傷跡と影。戦争とは、2人にとって、何時、終焉を迎えるものなのか。 さらに、イヴァンの消えた記憶に絡む謎を追い、追われながら、いつしか迎える旅の終わり。 ――2人は、記憶を辿る旅路の最後に、何を知るのか。 ※旧題は『ディ・ア・レ・スト』です。 ※エブリスタ・ノベルアッププラス・小説家になろうにも掲載(タイトルは『ディ・ア・レ・スト~Dearest~』) ※つるよしのの個人サークル「コズミックスタア」より、『ディ・ア・レ・スト』と題した同人誌として発表しています。(初版2022年9月20日 発行)
評価・レビュー
最愛の誰かのために。苦しみながらも生きる人々の物語
退役軍人のイヴァンと、戦時中と戦後の不安定な情勢下で、名前とは裏腹の悲惨な身の上を背負ってしまった少女スノウが、宇宙の船旅に出る。仄暗い世界観ながら読み心地がよく、しかし見えてくる人々の事情は濃く、どこか物哀しい空気に満ちています。 ストーリーがしっかり作り込まれており、見どころ・考えどころが多い作品です。イヴァンが失った記憶と、そこに絡んでくる暗澹とした事情。最愛の誰かを喪った人々の叫び。戦禍が誰にも等しく残した傷痕。それらに容赦なく牙を向かれながらも、お互いを大切な人として見出し、寄り添うイヴァンとスノウの甘苦混ざった恋愛模様。時に明るく、時に暗い展開がなされながらも、イヴァンとスノウの姿を追わずにはいられません。 アクアマリンと雪のような美しさを持ちつつも、時に責苦となる消えない汚濁を背負い、進む二人の旅路。その結末をぜひ、見届けてみてください。
葉霜雁景
暗い過去がある中年と少女の支え合う旅
中年の退役軍人と少女が中心にありながら、 背景には戦争と人の醜さと酷さが横たわっている。 退役軍人の思い出せない過去をめぐり、二人は旅をする。 その途中で反発したり、思いを寄せあったり。 少女が愛する人ために、精神的に強くなっていくのが印象的でした。 ディ・ア・レ・スト(最愛の人)にたどり着くまでの、甘くはないけれど、深い物語。
lachs ヤケザケ
全てを失った男と苛酷な運命を生きる少女が探し求めたもの——。
戦争で顔の半分と記憶を失った元軍人のイヴァン。瓦礫の山で日々鉄くずを拾っていたスノウは、たまたま見つけたイヴァンの義眼を綺麗な石だと思い、指輪に仕立てていた。貧しいけれど純粋で可憐に見えたスノウには、しかしそれだけでなくもっと苛酷な秘密が……。 失われた過去に苦悩しつつもスノウを守ろうとするイヴァン、そんな彼に惹かれ、ひたむきに想いを向けてもなかなか受け入れてくれようとはしない彼に複雑な想いを抱きながらも、献身的に尽くすスノウの姿はあまりに健気で、見守っているこちらの胸が痛むほど……。 戦争、特に「戦後」という重いテーマを扱い、仄暗い予感にどきどきしながらもこの物語はどこへ行くのだろうと読む手が止まりませんでした。 多くの困難と謎を乗り越えて、二人がたどり着いた運命の果て、ぜひたくさんの方に見届けていただきたい物語です。
橘 紀里
喪失からの恢復
先の戦争で負傷し、身体の一部を機械に置き換えざるをえなくなった退役軍人・イヴァン。しかしイヴァンが先の戦争で失ったものは、身体の自由だけではありません。そして彼が、スラム街で出会った少女・スノウ。スノウもかつて大切なものを失い、また、現在も失い続けています。 大切なものを失った2人がそっと身を寄せあい、時にすれ違い、補いあいながら旅する日々が、美しく切なく描き出されています。2人は喪失の痛みから恢復することができるのでしょうか。
有馬 礼