犬と老女と映画館
最終更新:2020/10/11
作品紹介
長い宇宙探索の果てに帰還した宇宙船は、地上で大破した。無事だったのは、犬の体に移植された「男」だけだった。 犬は廃墟で出会った老婆の願いを叶えてあげようとする。 それは最後の道行きだった。 ディストピア/SF ※ ステキブンゲイ、他サイトでも公開中です。
評価・レビュー
悲しさと同時にほっとする、ディストピア短編
移住可能な惑星を探す為に、華々しく見送られた宇宙船。しかし、七十年の間に地球は既に荒廃し、忘れ去られた宇宙船は帰還の際に大破、犬型ロボットだけが生き残る、という悲しい導入。 ロボットは、廃墟で見つけた老婆の願いを聞いて、彼女を映画館に連れていこうとして……。 墜落の衝撃であちこち故障してしまって、バッテリーもギリギリしか残っていないロボット。老婆ももう先が長くない様子、という、悲しい状況の中、次第に因果の糸が解きほぐされていきます。 犬が犬になったのと、地球からの通信が途絶えたのは、どちらが先だったのだろうか、とか。 かつて、彼の人が恋人を顧みずに仕事に没頭したのは、仲間に対する対抗意識もあったんじゃないだろうか、とか。 読み終えた後も、ぐるぐると考えてしまいます。 上質な映画のような、ドラマティックな短編小説でした。
akinokonika
『記憶』がないことと『想い出』がないことは、決してイコールではない。
人類は衰退の一途を辿り、荒涼とした世界に変貌した地球。 機械仕掛けの『犬』は、いまにも死んでしまいそうな『老婆』の願いを叶えるため、共に短い旅路を往きます。 どうして犬なのか。 どうして老婆に出逢ったのか。 どうして共に行動したのか。 どうして映画館なのか。 どうしてーー 一つずつ『どうして』という種が蒔かれ、丁寧に水を与えられて、それらが芽吹いた瞬間に気づいた事実に息が止まりました。 そして同時に、涙も溢れました。 犬がなにかに導かれるようにして向かった場所の意味。 老婆がずっと大切に持っていた物の意味。 ラストシーンは、魂が震える一つの絵画を見たかのように錯覚しました。 すべてが分かった上でもう一度読めば、最初に感じた景色と違ったものが見えるかもしれません。 すべてが儚くも美しい、心に残るSF短編です。 ◆ オノログ内で他の方々のレビューを拝見し、出逢えた素敵な作品です。 わずか5500字ほどの短編ながら起承転結が上手く、するりとその世界観に惹き込まれます。 台詞が少なくとも伝わってくるものがあり、むしろ台詞が少ないからこそ良いのだと思いました。 この物語の『核』となる部分を理解した瞬間から、私は涙が止まりませんでした。 もともと涙もろいこともありますが、この犬と老婆の旅路を鮮明に思い浮かべることができたからこそ、涙が溢れ出たのです。 とても強く、心に残る素敵な一作でした。
mochi*(読み専)
夜明けとは福音であり、しかし同時に終わりでもある
「やりきれない感情を抱いた上で生きていく複雑な想い」を、丁寧に掬い上げて描かれる作者様と感じています。 この作品も、ディストピア世界における理不尽や不自由なんてレベルをとうの昔に越えた先の、ある種の極限を描いています。世界設定がとてもとても緻密で、一文字読むごとに息苦しささえ感じるリアリティ。現代とはかけ離れた状況なのに、登場人物の深いところまで共感してしまう。 無駄のない言葉選び、確かな文章力、冷静な観察眼と対照的に熱い筆跡──。 終わることは哀しいことなのだろうか。 終わることは、赦しだろうか。 終わりは誰にでもいつか訪れるからこそ、深く考えさせられる作品。というか、作者様。 最後まで読み終えたとき、自分が息をしているのか分からなくなる。それほど惹き込まれてしまった素晴らしい作品です。というか、素晴らしい作者様。(大事なことなので2回書く) 夜明けがテーマの小説「フィフコン」参加作品の中でも、ずば抜けて強い衝撃を与えられた作品です。 ※ステキブンゲイ版で拝読
千楓
温かくて切ない‘夜明け’
終末を迎えた世界、一匹のロボット犬は老女と出逢い、彼女の願いを叶えようとする……。物語を彩る要素の一つ一つが、切なくて、素晴らしくて。犬と老女が迎える儚いが温かい‘夜明け’を描いた一作でした。読めてよかったです。
石嶋ユウ