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作:綿野 明

シダル 信念の勇者と親愛なる偏奇な仲間達

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未評価

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最終更新:2022/5/5

作品紹介

 辺境の村の孤独な狩人が、ある日突然勇者に選ばれる。重い使命に戸惑う彼にはしかし、故郷では望んでも得られなかった「仲間」ができた。  階段を下りるだけで力尽きる神官、ぼんやりの限度を知らぬ魔法使い、生まれて初めて楽器を触る吟遊詩人、賢者は強力な魔術師……ではなく、森の塔に引きこもりの学者さん──えっ、もしかしてこれ、俺が一人で全員守るのか?   暗く淀んだ世界を敵に追われながら笑って旅する、異色の英雄譚。  ※カクヨムにも掲載しています ※完結済みですが、時々番外編が追加されます

R15残酷な描写あり冒険ファンタジー異世界勇者剣と魔法風土記系FT

評価・レビュー

シリアスなのにクスっと笑える、海外文学風ファンタジー

主人公のシダルは、「秘境」とまで呼ばれる辺境に住む狩人。不思議な力を持つ為に、閉鎖的な村に馴染む事が出来ず、孤独な日々を過ごしていたが、ある日、神託によって「勇者」に選ばれ、世界を救う為の旅に出る事になります。 と、こう書くといかにも王道な展開で、確かに王道ではあるのですが、王道の面白さに加えて、一味違った美味しさがあります。 まず、旅の仲間。 お花畑が何よりも似合う、浮世離れした美しきエルフの魔法使いは、莫大な魔力を持つのに、手先が不器用過ぎて魔法陣が上手く描けません。 素晴らしい治癒の腕前を持つ神官は、虚弱体質で、体力も運動神経もゼロ。 吟遊詩人は、人の見えないものを視ることが出来るけれど、豊かな感受性のせいで、暴力や流血が死ぬ程苦手。 お前が魔王か、と言いたくなる見た目の、人間嫌いで潔癖症な賢者は、知識は豊富なのに魔力が少なくて、実戦に向かないという有様です。 けれど、戦闘に向かない仲間に振り回される勇者の、不憫さを楽しむ物語、ではありません。何故なら、勇者は、彼らのお陰でとても幸せな旅を送る事になるからです。 次第に明らかになっていく使命の重さや、対立する神殿勢力との熾烈な闘いは、生半可なものではありませんが、彼らが築いていく絆の深さが、そのまま彼らの力になり、彼らを救うのです。 あと、勇者シダル。彼は本当に、本当に、本当にイイ奴。彼というキャラクター自体が、とにかく一味違うのです。私は、ちょっと捻くれたタイプのキャラが好きになる事が多いのですが、まさかこんな真っ直ぐな性格のシダルがお気に入りになるとは思いませんでした……。 これぞファンタジー、という様な幻想的で美しい風景も、世界観も素晴らしいです。地下の国から地上へ、海を渡り、砂漠を抜け、山を越え、まるで本当にこの世界を旅しているかのような気持ちになりました。 学校の図書室に並んでいてもおかしくない、正統派ファンタジーです。

5.0

akinokonika

神託によって選ばれた勇者とちょっと(?)変わった仲間たちの旅の行方は——?

 辺境に暮らす圧倒的な力を持つ青年が、神のお告げによって勇者に選ばれ、魔王を倒す旅に出る。  ファンタジーの王道ストーリーのはずなのに、この物語の勇者とその「剣の仲間」たちは一味も二味も違います。  癒しの力は圧倒的だけれど、敵である竜にまで情けをかけて勇者の剣を止めて隙をつくらせてしまう「神官」。知識と魔術は素晴らしいものの、魔王そのもののような容貌と雰囲気の「賢者」。目を奪われるほど美しく圧倒的な魔力を持つのに、戦闘中にシチューを煮始めてしまうような行動が読めない「魔法使い」。唯一、常識人に見える美しい「吟遊詩人」は、血が苦手でやっぱり戦いには向かない。  そう、勇者以外の仲間は、ほとんど戦う力を持たないのです。  けれど、読み進むにつれて、どうして彼が勇者に選ばれ、そして彼らが勇者の仲間——剣伴として選ばれたのか、むしろ彼らでなければならなかったのか、が徐々に明らかになっていき、同時に本当に強く優しい彼らを好きにならずにはいられません。  さらに物語に花を添えるのが、勇者と魔法使いそれぞれのとても個性的な恋。二人の純粋さがとてもとても厄介なそれぞれの相手の心を動かしていく様子が、本当に切なく美しいのです。  世界の淀みと人間の罪という重いテーマが根底にありながらも、思わず爆笑してしまうような楽しいエピソードと試練や苦難のお話のバランスがよく、退屈する暇もなくあっという間に読み切ってしまいました。  ドラゴン、ドワーフ、人魚など幻想的な生き物が生き生きとしている魔法に満ちた世界で、多くの困難と向き合いながらも、シダルたちならばきっと大丈夫、と何となくそう信じて心の底から楽しむことができる正統派ハイ・ファンタジー。ぜひ彼らと共に旅をして、勇者シダルと仲間たちの物語を見届けてください。  最後にこれだけは言いたいのですが——ハイロが最高に可愛いです!

5.0

橘 紀里