またここで君と逢いたい
最終更新:2020/5/15
作品紹介
ある事故で意識不明だった少女、美桜(みお)は、約1年ぶりに目を覚ました。 リハビリと経過観察のために入院生活を送ることになった美桜は、同じく入院している車椅子に乗る少女、真璃(まり)に出会う。 真璃とすぐに打ち解け、平和な入院生活を始める美桜だったが、周りの人間が自分に何か大きな隠し事をしている事に気づき始める。 それを追求しようとする美桜に突きつけられる真実とは。 表紙はまるたに様(@marutani888)に描いて頂きました。
評価・レビュー
謎が謎を呼ぶ展開。またきっと、彼女たちに逢いたくなる。
ある事故で意識不明だった少女、美桜(みお)は、約一年ぶりに目を覚ました。 リハビリと経過観察のために入院生活を送ることになった美桜は、同じく入院している車椅子に乗る少女、真璃(まり)に出会う……。 物語は、主人公の一人である美桜(みお)が約一年振りに病室で目を覚ましたところから始まります。 一年も意識が戻らなかった原因は、自宅の階段から落ちたことだよ、と説明された美桜は、本当だろうか? と釈然としない思いを抱えます。 けれど、違和感は、他にも様々病院内に存在していたのです。 仕事で海外に出ているから、という理由で見舞いに来ない母親。 時折不自然な対応を見せる、顔馴染みの看護師。 初対面のはずなのに、やたら近い距離で接してくる少女、真璃(まり)。 さらには、病院内を彷徨い歩く不思議な少女。 これらの謎は、適切なタイミングで物語の中に配置されていきます。ごく自然にページを捲らせる引きの上手さと構成の巧みさは、特筆ものです。 さて、最初は真璃の対応を訝しんでいた美桜でしたが、次第に彼女が描く絵画と彼女の存在そのものに惹き付けられていって……? 本作、いわゆる百合、というジャンルに属する恋愛作品なのですが、ミステリーものが好きな方も、楽しめるのではないでしょうか。 もっとも、百合、とは言っても身構える必要はありません。女の子二人による甘酸っぱくもじれったい純愛ものなのですから。いちゃいちゃする二人の様子にほんわかさせられます。 章ごとに視点を変えつつ進行していく一人称は、しっかりとした描写をしつつも決してくどくなく、柔らかい地の文で綴られる文章に、ごく自然に情景が頭に浮かびます。 会話文と地の文の比率が、ライト文芸というジャンルにおける理想値に近いのでしょうかね? 兎に角読みやすいのです。登場人物の動きの中に織り込まれる心情に、見事なまでの伏線。書き手としても参考になる部分が多いです。 しかも驚いたことにこの作者さん。これが処女作なんだそうです。 これは最早、才能ですよ。ほんと、勘弁してほしいですね (苦笑) 珠玉の百合作品。この機会に触れてみませんか? 謎が謎を呼ぶ展開に、またきっと、彼女たちに逢いに行きたくなることでしょう。
木立花音(こだちかのん)
少女の記憶の扉の先にあるものは・・・
彼女はご当地有名人。 山に囲まれた小さな町穂乃咲ほのさき町の有名人。 この町唯一の観光名所木花このはな神社の跡取り娘。生まれながらの咲神命サキガミノミコトに仕える巫女。 そんな彼女がある時病院で眼を覚ます。彼女が自身の記憶を遡ると1年と2ヵ月の記憶がない。 医師との会話で自分がその間ずっと寝ていたと理解する。ただいたる所にある違和感。 その違和感の正体が掴めぬまま彼女は、病院の談話室で一人の美しい少女と知り合う。 少女と穏やかな時を過ごす中で、彼女は2つのことと向き合うことになる。 自分の記憶と少女の想い。 彼女が自分の記憶の扉を開ける時いったい何が起きるのか? 少女の想いにどう応えるのか? とても丁寧な心理描写、病院と言う比較的情景描写を抑えられる場所を舞台にしているにも関わらず、ここぞという時に発揮される情景描写。 登場人物達もしっかりと個性を発揮し、軽快なトークで物語のテンポをとても軽快なものにしてくれているわ。 文章構成も見事よ。随所に散りばめられた謎が、読者を先へ先へといざなってくれるの。 幕間として入る母親と娘の会話が、この物語に更なる期待感も加えてくるわね。 主人公が記憶の扉を全て開き、少女からの想いに答えをだす時、何が起きるのか。それは是非、皆さん一人一人の眼で確認してほしいの♥
宇治津 千夜狐