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作:尾八原ジュージ

月と酔っ払い

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未評価

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最終更新:2020/8/28

作品紹介

急に思いついて「なにこれ」と思いながら文章にし、どうしたらいいのかわからなかったので川に流すことにしました。

現代ファンタジー第一回神ひな川小説大賞ウナギ

評価・レビュー

突然の転調と、そこから始まる幻想的な風景

 親に押し付けられた借金で首が回らなくなった『ぼく』が、杏子と一緒にテキーラを飲んで、そのまま石抱えて湖に沈んでいくお話。  とまあ、ここまで書くと完全に入水自殺のお話で、事実そのつもりで読んでいたのですけれど。よく見たら現代ファンタジーで、どうも現実の世界とはちょっと勝手が違うみたいです。  例えば5メートル級のウナギがいたり、あと入水しても酔っている間は窒息しなかったり。冒頭を抜けたあたりでの突然の転調、急に物語のリアリティラインが変わったように見えて、でも実は全然そんなことはない(ただそう錯覚させられていただけ)という不意打ちが面白かったです。入水自殺にしか見えなかった目の前の景色が、まったく違うものに見えるようになる瞬間。  タイトルと章題に共通する『酔っ払い』という語の通り、作品全体に通底する酩酊感、ちょっと酔っ払ったみたいな幻想の風景がとても魅力的です。青く染まった水中の景色。いえ夜の湖なので暗い(黒い)のかもしれませんけど、でも月光が届いているようなのでやっぱり青のイメージ。酔生夢死、というとちょっと意味が違うのですけれど、でも酔っていて生きるか死ぬかの際にあって、それでいて夢のような景色が続いているなので、むしろ今日からこっちが酔生夢死でいいと思います。  この世界の物理法則は結構独特なようにも思えるのですが、でもそのわりにはスッと飲み込めたのがなんだか驚きました。わかりやすさというかわからせ上手というか。なんだか絵本のような雰囲気、という感想は、でもたぶん嘘っていうか登場人物のおかげだと思います。だってやってること自体は絵本みたいな牧歌的な世界と程遠い(借金に追われての命がけの冒険)。にもかかわらずそんなに悲惨な感じを抱かせない、杏子さんと『ぼく』のこのふわっとした感じがとても好きです。  ふんわりした幻想的なお話ではあるのですけれど、同時にしっかり物語しているのも嬉しいです。苦難があり、それに立ち向かい、でも敵わず危機に陥ったり……と、だいぶしっかりした冒険をしている。特に終盤手前、絶体絶命の状況を半ば受け入れそうになりさえするのですが、でも悲劇的であっても暗い話にはならないんです。このふんわりした優しい雰囲気と、実際に起こっている出来事のハードコアさ加減、このふたつがうまく両立されているというか、それぞれいいとこ取りしているのがすごいなと思いました。どうやってるんです?  その上で、一番好き、というかもう心底最高だと思ったのは、やっぱり終盤から結びにかけての展開です。ハッピーエンド。それも個人的にはもうこれ以上ない、まさにお「手本のような」という形容のぴったりくる感じのそれ。幸せな結末の前にはまず苦難があって、その振れ幅が大きければ大きいほどハッピーエンドの威力は増すのですけれど、でもさっきの〝いいとこどり〟のおかげで、余計な副作用(重かったり辛かったりするところ)が抑えられている。読み手の心が折れないようにしてあるのに、でも落差だけはきっちり効いている、というこのずるさ。  よかったです。本当にただただ「無条件にいい」と言いたくなる、心の洗われるような見事なハッピーエンドでした。大好き!

5.0

和田島イサキ