僕と彼女の、繰り返される夏
最終更新:2019/11/15
作品紹介
『怠惰』にして『無感情』。 他人に対してあまり興味・関心を示さない高校生、高畠智也(たかはたともや)は、繰り返し同じ夢を見ていた。 それは、二年前、犯罪に巻き込まれて亡くなった〝仮初の恋人〟、藤堂栞(とうどうしおり)と海で過ごした最後の日の夢。 どうして同じ夢ばかり見るのか……。首を傾げる彼の前にある日、藤堂と瓜二つの外見を持つ転校生、柚木栞(ゆずきしおり)が現れる。 柚木に藤堂の話を語った翌日、智也は、二年前の世界にタイムリープしている事実に気が付いた。 こうして始まった、藤堂栞がまだ生きている世界。二度目となる中学三年の夏。 自分がタイムリープした理由を、藤堂の運命を変えることなんじゃないか? と考えた智也は、再び藤堂と交際をすることに。前回と違い、積極的な彼女に戸惑いつつも、次第に惹かれていく智也。 仮初から──真実へ。二人の愛が本物になっていく中、今度こそ藤堂を救うと彼は誓う。 決戦の日は、藤堂栞の命日──八月四日。そこで彼が見たものとは……? そこには大きな謎と真相が隠されていた。 ※表紙イラストは、西畑様に描いて頂いた藤堂栞です。最高に可愛いです。ありがとうございました! ※第四回ライト文芸大賞奨励賞 ※メディアワークス文庫3つのお題コンテスト、【泣ける×青春】部門最終選考
評価・レビュー
夏の良作が、ここにある!
この物語をまだ読んでいない方に伝えたいこと。 【 ヒロインに惚れます!!! 】 見た目や仕草が可愛いとか、萌えとかキャラ立ちとか、そういうものを超えています。これは惚れるしかないです。男だろうが女だろうが、この作品のヒロインに例外なく惚れると思います。現に私が惚れた! 衝動のあまり真っ先に伝えたいことを書いてしまいましたので、以降は順番に書かせて頂きます。 この物語は主人公・高畠智也が、恋人・藤堂栞との過去を夢に見ているところから始まります。 男子学生にとって恋人との時間は、学生生活に潤いを与える甘美なものでしょう。ですが、智也にとっては違いました。彼と彼女の関係は、『仮初』に過ぎなかったのです。 容姿端麗で人気者の栞と恋人という関係にありながら、智也は恋や愛という感情を持てずにいました。そうして日々が過ぎていく中で、栞は唐突に智也の前からいなくなってしまいます。智也との関係に嫌気が差したからとかではありません。 藤堂栞は、智也と「サヨウナラ」という言葉を交わした日の翌日、変わり果てた姿となって発見されたのです。 この事件が、物語の主軸となっています。 そして亡き恋人の夢を見た翌朝、智也の身には信じられない出来事が起きていました。 高校二年生だったはずが、なぜか中学生の頃にまで時間が巻き戻っていたのです。 なぜ時間が巻き戻ったのか? という部分が、『僕と彼女の、繰り返される夏』という作品では最大の謎であり、大きな意味を持っています。そして智也は、巻き戻った時間を有効に使うため、まだ生きている栞を「死なせない」ために奔走する。 恋愛ものでありながら、この作品の主人公には『乗り越えなければならない壁』と『敵』がいるのです。事件を巡る主人公の奮闘には、手に汗握るものがありました。 巻き戻った時間。 亡き彼女とそっくりな少女。 栞の手元にある【運命の人】という本。 これらの謎が複雑に絡み合っていく中、智也は無事に栞を救い出すことが出来るのか!? ……というのが大まかな(本当に大まかな)ストーリーですが、ぶっちゃけこれだけではありません。見事などんでん返しがあるのです!(タグに書いてあるのでここはあえて言います) いやあ……もう、ね。その感想が冒頭に繋がる訳ですよ。栞ちゃん、稀に見るヒロイン力の高さ。ベストオブヒロイン。最高です。 怒涛の展開に息つくのも忘れてしまう本作ですが、合間の癒しになってくれているのもまた栞ちゃんです。 作者様の卓越した文章力でもって綴られる彼女の細やかな仕草には、頬が緩みます。そして中学生らしい恋愛模様には読んでいるこちらが恥ずかしくなってくるものがあり、これもまた物語の合間の休憩となっています。……しかし!! ただの「需要」としての描写では、決してないのです!!! ここが、この作者さんの凄いところです。ただの「お楽しみ」になってしまいそうな些細なシーンさえ、伏線にする。とんでもない能力です。 いやもう本当、読んでない方は是非とも読んで下さい。時間が無駄になるなんて事は決してありません。 本屋でたまたま買った本がとんでもなく良作だったとか、そういう類の悦びを感じられます。作品として非常に完成された物語です。 純愛ものがお好きな方、タイムリープものがお好きな方、青春ものがお好きな方。 ぜひこの【僕と彼女の、繰り返される夏】という作品のページを捲ってみて下さい。 あなたの中に、これからの季節、読み返したくなる作品が一つ増えるはずです。
白胡麻
タイムリープ青春SF。こういう夏が過ごしたいなぁ…
タイムリープSFと青春・恋愛って相性よすぎですね。しかも季節は夏。 このフォーマリズムは「時かけ」以来長く愛されてきたもののひとつだと思いますが、この作品はそのど真ん中を突いて、ぎゅうぎゅう胸を締め付けてきます。 物語は、主人公の智也が2年前に亡くした彼女「藤堂栞」とそっくりの「柚木栞」に出会うところからスタート。この時点ですでに甘ずっぱい感満載なのですが、舞台は藤堂栞が亡くなる前の世界にタイプスリップ。当然、彼が取った行動は、彼女の死を避けたいわけなのだが、当の栞のほうも記憶と違う行動ばかり。 はっとする夏の描写や、鍵となる小物の使い方。運命に翻弄される2人の切ない心理も直接的に描かないで行動から匂わせたりと、上手いです。 後半からは息を呑む展開で、ほんと読ませられました。ほとんど忘れかけていた頃に「あ! この人!」という展開もうなりました。時間の異なる平行世界ができるので頭がこんがらがりましたが、タイムリープものなのであまりそこは考えても仕方ない感じですね。辻褄はあってます。 智也の行動と成長、2人の「栞」の想いも、くぅうと最高に惹かれるものがありました。
嶌田あき
時を越えて、それでも積み重なる時は、少年に大事なことを気づかせる
少年はただ生きていた。 懸命になることも、投げ捨てることもせず、ただただ生きていた。 そんなある日、少年のクラスに1人の転校生がやってくる。2年前に暴漢に襲われ死んだ仮の恋人と同じ名前の瓜二つの少女。 不本意ながら彼女と話した翌日、少年は2年と1ヶ月前に飛んでいた。 ぼんやりと恋人が助かればいいなと日々を過ごす少年は、少しずつ、少しずつ真実に気が付いていく。 彼女が死んだ理由。自分がこの時代に飛んだ理由。自分が彼女に抱く本当の気持ち。 文章の丁寧さ、描写の的確さ、なにより1ページ捲るごとに真実へと向かう展開は、終わりまで読者を放さないわ。 読者としてはもちろん、物書きの端くれとしても勉強になった作品ね。 読まずに済ますのはもったいないと思うのよ、アチシは。 是非一度ページを開いていただきたい至高の作品よ♥。
宇治津 千夜狐