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作:遥風 悠

旧きJRPGのルールに則って、世界を救いたい魔王の物語

 魔王の仕事は意外と地味である。何て言ったら疑われるだろうか。コツコツと小さな積み重ねを繰り返す日々である。嘘つけ、と思われるだろうか。配下に千も万ものモンスターがいて、自身も強大な魔法が使えて、怖くて、変身もできて―まるっきりの見当外れとは言え無いけれども、そう単純でもない。優雅に泳ぐ白鳥の足が水面下で藻掻いているように、多額の売上げを稼いでいる会社が蓋を開けてみれば赤字経営であるように。  今日も勇者一行が魔王の居城を目指して進行する。魔王直々に手を下すことはできないが、配下のモンスターが行く手を阻む。ダンジョンのトラップが頭を悩ませる。いきなり強いモンスターは派遣しない。徐々に、徐々にだ。突然強力な装備品も与えない。段階を踏んで。覚える魔法も閃く必殺技も同じ、理想は迷宮に幽閉されたネズミの如く、永久に彷徨い続けること。その為に万策を尽くす。けれどもいずれ辿り着く。願わくばその者が、思い描いた勇者であってほしい。 掟① 勇者一行を絶滅させてはならない。  勘違いしてはいけない。全滅ではなく、絶滅させてはいけないのだ。魔王によって派遣されたモンスター達は、至る所で勇者一行を待ち構えている。そしてエンカウントして戦闘になれば全力で攻撃を仕掛ける。 掟② 勇者一行は4人まで。モンスターパーティーは8体まで。  国家レベルの戦闘を仕掛けるわけではない。村単位でも、町単位でも、城単位でも意味を持たない。勇者達が短い戦闘を幾度となく繰り返すことが求められる。金と経験値を稼いでレベルを上げ、武器や防具を購入しステータスを上げる。そうして、勇者には1歩ずつ魔王の元へ近付いてもらわなくてはならない。その為に、勇者一行の人数を最大で4人までとする。またモンスター側も、小型タイプで最大8体までとする。この範囲内であれば、好きに仲間を呼んでもらって構わない。 掟③ 魔王が地上に降り立ってはならない。  ラスボスが勇者と戦うのはラストバトルのみ。それまでは間接的にしか攻撃することはできない。例えばモンスターを派遣したり、ダンジョンを構築したり、イベントを発生させたり。直接手を下さなければ何をしても構わないが、仕掛けた後は見守ることしかできない。大概は他にやることがあって観察することもできないのだが、それこそ大勇者なるものが現れたらば、時間を割いて眺めたいものである。

更新:2022/12/9

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