主人公のロクドは、左手にどす黒い痣を持って生まれた事で、十三歳になる前に村を出なければならない、と言われます。この痣は、大昔に何者かがこの土地に埋めた憎悪の種で、ロクドが村を離れれば、芽吹く事はない、と。村を囲む森を、子供が一人きりで抜けるのは不可能、待ち受けるのは死、と知りながら、ロクドは自分の運命を受け入れ、けれど生きるのを諦めず、悲しみに暮れる両親を気遣う、健気でしっかりした少年です。
森で死にかけたロクドを助けたのが、青年カレドア。クールで腕の良い魔術師です。あまり深く他人と関わらない割にロクドの弟子入りを許し、他人を突き放している様で意外と面倒見が良いという、微妙なバランスと、時折見せる底知れない陰が堪りません。
まず、この二人の師弟関係が最高です。二人とも理知的で、冷静で近付き過ぎない距離感を保ちながらも、ロクドは、カレドアのあまり他人を寄せ付けない態度の隙間から人間味を垣間見、カレドアも、ロクドの存在に慣れていく。穏やかで緩やかだけど、確かな絆が育まれていくのです。
しかし。各地で村を全滅させていく奇病、不思議な少女ヨグナとの出会いを経て、師弟の運命は大きく分かたれます。
それと前後して、ロクドが見る、謎の夢。
その夢に出てくる二人の青年魔術師、その関係もまた最高です……最高オブ最高。
田舎の村の不遇な生まれにも負けずに、努力で才能を開花させたレドニス。周囲の妬み嫉みを事も無げに受け流す事で、余計に反感を買ってしまうタイプです。
そして彼の兄弟子のライネルは、快活で正義漢で一本気。この対照的な二人が、互いに信頼し合うこのコンビが……このコンビが……!!
夢が意味するものとは。世界を蝕む呪いとは。綿密に組み上げられたストーリーは読み応えたっぷりです。
美しい文章で描かれた、幻想的な魔術の描写も素晴らしいです。
放課後の図書室で読み耽った、ハードカバーの本を思い起こさせる、珠玉のファンタジーです。
登録:2021/7/19 12:38
更新:2021/7/23 17:15