いや……これは凄い。
物語は時間軸にして一週間ほどの事。であるにもかかわらず、それまでの事象や関係性が自然と溶け込んで土台となり、変化を語る。
進行する現在の物語の中、その変化を語る上で必要な舞台や登場人物の過去や立ち位置が、説明調でなく、ほのめかすわけでもなく、自然と溶け込んでいることの巧みさは、全二十話の物語に重厚さをもたらしている。
背景描写は叙事的不可欠要素が叙情的に切り取り描かれ緻密に美しい。客観的な女伯の一人称という調和による美しさ。
その一人称視点、女伯のフィルターを通して語られる人物たちの心情はしかし、揺蕩う水の向こうのように見え、切なさを覚える。
誰一人として無駄な人物なくこの物語をつくっている。
構成も描写も台詞も人物も、そして読後感も、どろりとした物語であるはずなのに、美しいという言葉に尽きる。
いや……これは本当、凄いとしか言いようがない。そんな作品。
登録:2021/7/10 02:09
更新:2021/7/23 17:15