優しい文体、それが第一印象でした。児童文学のように柔和でわかりやすく、囁いて来るような筆致に導かれ読み進められるのですが。語り部がどんなに優しくても、吟遊詩人が美しい調べに乗せたとしても、世界は残酷であると気付かされます。
主人公は記憶を失った少女、アリス。
ひっそりと暮していた優しい治癒師カインツと出会い、色々な出来事の過程、新たな人との出会いで経験を積み重ねていきます。
悪魔とは?精霊とは?この世界は?
数々の謎とアリス自身の真実を見つける旅路の中で、彼女がこの世界で得る経験を追体験していく物語。
それぞれのエピソードで、物語を彩る登場人物たちの感情が緻密かつ丁寧に表現されていて、光が影を作るように、憎しみの影には哀しみが。やさしさの裏には後悔が。相反するものが、何度も繰り返し打ち寄せてきます。
人は相手を上っ面で判断しがちですが、一人の人間の中には常に表裏一体でプラスの感情とマイナスの感情があり。この人はこういう人だなどと、一言で表現できるほど世界も人間も単純ではないと知る事となり、とにかく人物描写が深いの一言です。
葛藤や苦しみの救いとなる一筋の光明は、優しさなのか正しさなのか強さなのか。本当の意味での救いとは?
残酷な出来事に心をえぐられますが、えぐられたこそ掘り出される新たな感情への気づき。
これは、己のこころの姿を知る物語でもあります。
登録:2021/7/21 06:05
更新:2021/7/23 17:15