人類は衰退の一途を辿り、荒涼とした世界に変貌した地球。
機械仕掛けの『犬』は、いまにも死んでしまいそうな『老婆』の願いを叶えるため、共に短い旅路を往きます。
どうして犬なのか。
どうして老婆に出逢ったのか。
どうして共に行動したのか。
どうして映画館なのか。
どうしてーー
一つずつ『どうして』という種が蒔かれ、丁寧に水を与えられて、それらが芽吹いた瞬間に気づいた事実に息が止まりました。
そして同時に、涙も溢れました。
犬がなにかに導かれるようにして向かった場所の意味。
老婆がずっと大切に持っていた物の意味。
ラストシーンは、魂が震える一つの絵画を見たかのように錯覚しました。
すべてが分かった上でもう一度読めば、最初に感じた景色と違ったものが見えるかもしれません。
すべてが儚くも美しい、心に残るSF短編です。
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オノログ内で他の方々のレビューを拝見し、出逢えた素敵な作品です。
わずか5500字ほどの短編ながら起承転結が上手く、するりとその世界観に惹き込まれます。
台詞が少なくとも伝わってくるものがあり、むしろ台詞が少ないからこそ良いのだと思いました。
この物語の『核』となる部分を理解した瞬間から、私は涙が止まりませんでした。
もともと涙もろいこともありますが、この犬と老婆の旅路を鮮明に思い浮かべることができたからこそ、涙が溢れ出たのです。
とても強く、心に残る素敵な一作でした。
登録:2021/7/24 10:56
更新:2021/7/25 13:58