美しい情景描写や展開の面白さはもちろんのこと、心理描写がとにかく丁寧な作品。主人公のアリスを筆頭に、キャラクターたちの心情が繊細かつ鮮明に、優しく、そして妥協なく描かれています。
もやもやとして詳しく言い表せない心情、喜怒哀楽の言葉だけでは言い表せない、あるいは言い切れない心情。この作品はそんな曖昧な部分まで見事に書き出し、キャラクターたちに血が通っていることや、彼ら彼女らが抱いている気持ちを強く感じさせてきます。それもあって物語への没入感はかなり高め。出てくるキャラクターの数は多いですが、書き分けがしっかりなされていて判別も付きやすく、一人一人の心に共感できる部分もあります。
しかしながら、物語が進むにつれ、キャラクターたちは残酷かつ悲惨な運命に翻弄されてしまいます。目を背けたくなる現実に切りつけられ、傷を負っていく彼らの姿に、思わず「もうやめてくれ」と震えてしまうかもしれません。けれど、筆舌に尽くしがたいことも、生々しい心の傷や流血も、容赦なく書き出されているからこそ、キャラクターたちを大事に思え、幸せになってほしいと心から願えます。
そんなキャラクターたちの言葉や見ている景色は、読んで感じてみてください。どこまでも誠実に書き出された叫びに、必ず心を揺るがされます。
登録:2021/8/14 10:38
更新:2021/8/14 10:38