この海の底は、少女との約束の地でもありました。
エネルギーの枯渇問題は、この地球に生きるものすべてが無関係ではいられません。
日本は『独自の技術』によって海洋や宇宙に大規模なエネルギー供給機構を創り上げ、鎖国することを選択します。
女性は国民の義務である徴労のため、数ある職場から海底施設を選びました。
そこへの道中、高校時代のクラスメイトと再会したことで『幼なじみの少女』のことを思い出します。
「二十歳になったら、あの場所で再会しよう」
かつての約束を胸に生きる姿は背景描写と相まって、女性のまとう空気感を切なくも美しいと感じさせます。
どこか空虚感もある「海底庭園」は元クラスメイトの視点から見ると、また違う景色を映し出します。
そして「天上の庭」では国家機密の『核』が判明し、この世界がディストピアなのだと印象づけられました。
とても好きな群像劇作品です。
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こちらは元々、3つの短編からなるシリーズ作品として掲載されていたものが『加筆修正』された連載作品です。
群像劇となっているため、一人ひとり違った価値観から生きている様子が伺えます。
個人的に地の文が好きで、頭の中に幻想的なイメージを思い浮かべながら読んでいました。
鎖国された日本で『国民の義務』が課せられているような世界観、その核にある『国家機密』がなんなのか分かった瞬間はかなり驚きました。
3作目「天上の庭」を読むまでは『ディストピア』という感覚はなかったのに、秘密が分かってから読み返すと一気にディストピア国家・日本を感じられました。
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現在15話(約4.2万字)で、各5話ずつ区切られています。
百合要素(ガールズラブ)があるのは「海底庭園」の2作品ですが、それほどあからさまではないので苦手な方にもオススメしたいです。
・海底庭園 ■竹下
幼なじみの少女との約束を胸に生きる女性のお話。
・海底庭園 ■亀田
好きな女の子と再会し、高校時代の出来事を振り返って前に進むお話。
・天上の庭 ■江崎
普通の技術要員だった男性が、国家機密に関わるお話。
登録:2021/9/1 20:12
更新:2021/9/1 20:36