食指の動くままにあれもこれもと読み漁っていると、「とても良い作品で、ないしょにしておきたいけれど、人にもおすすめしたい。なのにどこが良いのか、どう良いのかの言語化が難しくて、『良い作品だからとにかく読んでみて』としか言えない」という、扱いの難しい隠し玉的作品に時たま当たるのですが。この作品はそういったものの一つ。
祖父の道楽の暗室、通夜や葬儀のもようや回想を通して、主人公が知らなかった亡くなった祖父と家族の機微が、静かに、少しずつあらわになってゆきます。
そうしてそこに見えてきた景色を、私はとても、「ああ、人間だなぁ……」と感じ、深く惹かれました。
じんわりとしみいるような物語を噛みしめました。
丁寧に紡がれたこの物語は、わかる方にだけ、読んで欲しい。そんな風に思わせられる短編です。
登録:2021/9/1 20:52
更新:2021/9/25 20:16