三百余年の月日を生きてきた不老不死の少女と、彼女と共に暮らす大人の女性の物語。
あるいは、そのふたりがごはんを作る(食べる)お話。そしてその後の、お散歩のお話。
茜と紀栄子、それぞれの抱える苦悩のようなものが、徹底して〝直接書かれない〟ところが好きです。最低限の、それも曖昧な供述だけ。具体的にはわからないはずのそれが、でもなんとなく感じ取れてしまう。ふたりの結びつきとして見えてくる。
生きてきた年月も、日々の生活も、性格も、背丈も。重なるところのないふたりの、でも互いに互いを補い合うような関係性。それを端的な言葉にはっきり翻訳してしまうことなく、でもしっかり読み取らせてくれるところが好きです。
寂しく、どこか閉塞的な夜の闇。そんな光景を想起させるのに、でもふたりの間だけが少し暖かい。暗闇の中の小さな灯火のような、優しい雰囲気の物語でした。
登録:2021/10/5 23:44
更新:2021/10/5 23:44