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薄紅色の恋の行方。

5.0
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 読み終えて、輪郭がくっきりとした状態で改めてはじまりの景色に戻ると、その世界の色がまったく違って見える。静かな言葉の中に、情動に訴えかける力強さのある、とても素敵な短編だなぁ、と思いました。


〈唐棣の家の庭には、見事な花を付ける一本の藤がある。二年前――ちょうど一人娘の薄紅が病に罹った頃から年中花を咲かせるようになり、枯れることのない藤を見て畏怖した人々がいつしか「鬼憑き」と呼ぶようになっていった。〉


 美しい藤に隠れた妖しい魅力に引き寄せられていく薄紅の恋慕の情、その薄紅色の恋が向かう先に、曖昧だった記憶が重なって、立ち上がる像は儚くも切なく、確かにそこにふたりだけの世界があるのだ、と信じさせてくれます。相手のみをよすがにその感情のままに奔るひたむきな恋を紡いだ言の葉に身を寄せて、色彩豊かな登場人物たちによって描き出される物語を愉しむ。あぁ小説って楽しいなぁ、と再確認できるような小説でした。


 素敵な小説をありがとうございます。

サトウ・レン

登録:2021/11/14 01:24

更新:2021/11/14 01:23

こちらはサトウ・レンさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

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EGGMAN

終わりに見る光景は

〈おれはとてもしあわせだった。〉  終わりに見る光景がどんなものがいいかって、たぶん、終わりも知らない人間が気軽に語っていいのだろうか、とは思うのですが、でももしも終わりを前に、しあわせ、を感じるとしたら、彼が終わりに見たような色彩なのではないか、と感じました。  日本で発症を確認されたのがおそらく二例目とされる奇病中の奇病、俗に〈エッグマン病〉を発症した〈俺〉は、体が縮みハンプティ・ダンプティのようになっていく病魔に蝕まれながら、入院先で孤独に過ごした。そして退院の日、身寄りのない状況に困っている〈俺〉を迎えにきてくれたのが、幼馴染のモモこと桃園陽一だった。モモは縮んでしまったりはせず、そしてふたりは旅に出ることになった。……というのが、導入です。ですが、奇病の妙なリアリティ、旅の中で見る景色、感情を交わしていくふたりの姿の魅力は、縷々とあらすじを綴ってみたところで伝わるものではないでしょう。ぜひとも私のレビューなんかよりも、本文を読んで欲しいところです。 〈モモがペダルを漕ぎ出すと、世界の感覚が一気に変わった。最初はかなり揺れて気分が悪かったが、しばらくするとおれは残された手足を使って、クッションを敷いたキャリーの中で居心地のいい姿勢をとれるようになった。〉  何故、会社をひと月休んでまでモモが、〈俺〉と一緒にいることを選んだのか、そこに関する一応モモの口から語られる部分はありますが、必要以上に、詳らかに明かされることはありません。でも分かりやすい言葉を当てはめるよりもそのほうがずっと、心を寄り添わせやすい。  進行の続く病のいまを写し取るような変わっていく文体に、彼らのいまを感じ取りながら、幕を閉じて、切なくも静かな余韻に包まれる感覚がありました。

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サトウ・レン