ユーザー登録・ログイン

新規登録

ログイン

作品

レビュー

登録/ログイン

その他

オノログについてFAQ利用規約プライバシーポリシー問い合わせユーザー管理者Twitter
レビューを投稿
書籍化
コミカライズ原作
ジャンル別
サイト別
サイト関連
運営している人

@オノログ

すこしだけ見方を変えると、世界も変わるかもしれない。

5.0
0

〈小野がゆっくりと右のリールを回すと、編集機の画面には雨の風景が映し出された。雨の街並み。水たまりの波紋。そして、雨粒に頭を揺らす草むらの葉っぱたち──。〉


 同じひとを、同じ光景を見ても、すこしだけ見方を変える、あるいは新たな視点をすこしだけ取り入れてみると、それまで眺めていた世界はまるで違って見えたりする時、ってありませんか。本作は、そんな感覚を再認識させてくれるような、読み終わった後、読者自身も、いままで見ていた景色が違って見えるかもしれない、そんな気持ちになる作品です。


 県でも有数の強豪女子バスケ部に所属する〈私〉は、恋愛よりもバスケ、という筋金入りのバスケ女子で、これまでも男子からの告白は断っていたのだが、「なあ清水、シュウがお前のこと好きなんだって」と本人ではなく(本人さえも予期していなかった)別のクラスメートを伝って耳にしたシュウこと小野修二の間接的な告白だけは、どうも尾が引いてしまった。どうも彼のことが気に掛かり、〈私〉は映画好きの彼が以前話していた『シェーン』を観ることにして……、


 穏やかなトーンで綴られるふたりの距離感の変化に惹き込まれ、感情の揺らぎに寄り添わせて、爽やかな余韻とともに物語は幕を閉じます。


 たとえばこの作品においては『シェーン』がそれになるわけですが、物語が別の物語に繋がっていく(作中で言及されている作品が読みたくなる、観たくなる)作品なのも、個人的にはとても嬉しい。

サトウ・レン

登録:2021/11/14 01:53

更新:2021/11/14 01:53

こちらはサトウ・レンさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

同じレビュアーの他レビュー!!

EGGMAN

終わりに見る光景は

〈おれはとてもしあわせだった。〉  終わりに見る光景がどんなものがいいかって、たぶん、終わりも知らない人間が気軽に語っていいのだろうか、とは思うのですが、でももしも終わりを前に、しあわせ、を感じるとしたら、彼が終わりに見たような色彩なのではないか、と感じました。  日本で発症を確認されたのがおそらく二例目とされる奇病中の奇病、俗に〈エッグマン病〉を発症した〈俺〉は、体が縮みハンプティ・ダンプティのようになっていく病魔に蝕まれながら、入院先で孤独に過ごした。そして退院の日、身寄りのない状況に困っている〈俺〉を迎えにきてくれたのが、幼馴染のモモこと桃園陽一だった。モモは縮んでしまったりはせず、そしてふたりは旅に出ることになった。……というのが、導入です。ですが、奇病の妙なリアリティ、旅の中で見る景色、感情を交わしていくふたりの姿の魅力は、縷々とあらすじを綴ってみたところで伝わるものではないでしょう。ぜひとも私のレビューなんかよりも、本文を読んで欲しいところです。 〈モモがペダルを漕ぎ出すと、世界の感覚が一気に変わった。最初はかなり揺れて気分が悪かったが、しばらくするとおれは残された手足を使って、クッションを敷いたキャリーの中で居心地のいい姿勢をとれるようになった。〉  何故、会社をひと月休んでまでモモが、〈俺〉と一緒にいることを選んだのか、そこに関する一応モモの口から語られる部分はありますが、必要以上に、詳らかに明かされることはありません。でも分かりやすい言葉を当てはめるよりもそのほうがずっと、心を寄り添わせやすい。  進行の続く病のいまを写し取るような変わっていく文体に、彼らのいまを感じ取りながら、幕を閉じて、切なくも静かな余韻に包まれる感覚がありました。

5.0
0
サトウ・レン