〈僕の目に見える十数色程度の世界も、安藤の目には様々な彩りに溢れているように見えるんだ。きっと、今目の前に広がる全てが、そう見えているんだ。〉
ネタバレなしの感想にはなりますが、ぜひ感想を読むよりも作品のほうを読んで、夏の郷愁に身を浸してきて欲しい、というのが感想者の本音です。そのあと気が向いたら感想も読んでもらえたら、なお嬉しい、というのも感想者の本音です。
その日、離島に住む小学生の和田隼人が埠頭で出会ったのは、アイスキャンディを一心不乱に舐め続ける河童だった。河童は自らを〈旅河童〉と名乗り、そのアイスキャンディは島の数少ない女の子のひとりである安藤チエから貰ったものらしく、彼女に対して無口で不愛想な印象を抱いていた隼人にとって、それは意外なことだった。
河童と未知との遭遇を果たしたあのひと夏の経験が、少年の心に変化を与えていく。青春ファンタジーの趣きが濃い、不可思議な雰囲気に満ちた作品ですが、新しいことを見聞きし、新たなものと出会うことで、いままでと違って見方で世界を見たり、凝り固まっていた価値観がほぐれ、狭かった視野が広がっていく、少年を〈成長〉へと繋げていくものは誰にでも起こりうる普遍的なもので、自分事として自身の心を作品に寄り添わせたくなるような作品になっています。
隼人とチエ、そして河童。ほほ笑ましいやり取りは心地よく、知らないはずの過去に、その身を浸すような郷愁を覚えてしまうのは、多くのひとが共有する青春の根っこが丁寧に描かれているからなのかもしれません。素敵な作品でした。
登録:2021/11/14 02:01
更新:2021/11/14 02:00