互いのみをよすがとするしかなかったふたりが、静かに想いを交感していく物語です。幻想的なヴィジョンの中で恋心が描かれていく作品で、ジャンルを敢えて定義するなら恋愛ファンタジーになるとは思うのですが、ふたりの関係を、愛や恋、といった一語に気軽に当て嵌めていいのか、互いが様々な意味で〈生きる糧〉になるような切実さが感じられて、悩んでしまうところがあります。
後半の展開に詳しく触れるつもりはないものの、念のためにネタバレフィルタは付けましたが、感想を読むよりも、ぜひとも作品のほうを読んで欲しいな、と思います。感想で先に一度読んだ気になってしまうよりも、実際に丁寧に描写された心に自身の心を沿わせていくほうが、より物語の余韻が沁みるでしょうから。
読みましたか?
〈太陽がもう地平線の近くに浮かんでいる。レアリーの瞳が光を吸って宝石みたいに輝いていた。緋色に満ちた森の中を、「帰り道」を進んだ。〉
茹る様な夏の、森の真っただ中で、十三歳の少年ウルベルが出会ったのは、花を吐く少女だった。ウルベルの前で真っ白なプルメリアを吐き出した少女レアリー、バイオレットの髪の揺らめきが印象的な彼女との出会いは、花しか食べられない彼にとって運命だった。森の奥にひとり暮らす少女と花が咲いているところを探して旅をしていた少年は、一緒にいるようになり……というのが導入。
時代も場所もはっきりとしない世界を生きるふたりを待ち受けるものは、美しくも残酷さを孕んでいます。先程も書きましたが、後半の展開に詳しく触れるつもりはありません。でも例えば、そのストーリーをここで私が詳細に書いたとしても、それで内容が分かってしまったからと言って、魅力が無くなる種類の作品だとは思わなくて、その言葉に触れてこそ、と言葉や描写の魅力に満ちた物語なので、やっぱりこんな感想を読んでいる暇があったら作品を読みなさい、と重ねて伝えて、この感想を終わらせたいと思います。
登録:2021/11/14 02:07
更新:2021/11/14 02:06