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少年Aの友人B

作品詳細
クラスメイトの菊池くんが逮捕された。 容疑は一家殺害。 学校の周りにはマスコミが溢れ、登下校は憂鬱だった。 そんな僕の前に一人の記者が現れて――。 知っている人間が容疑者になった時、僕たちは何を語ればいいのだろう。

作品を読み終えてからが本当の始まり。読後に思考の嵐が吹き荒れる。

point_star point_star point_star point_star point_star 5.0

『一家殺人事件の犯人は、僕の友人でした。』


あまりにも強烈なキャッチコピーに目を引かれた。


ある日、一家殺害事件が起こる。

容疑者として逮捕されたのは、その家の息子(容疑者A)。

マスコミたちは容疑者の通っていた高校へ押しかけ、インタビューをしようと生徒たちに迫る。


主人公は、容疑者Aの友人である。

彼はマスコミに対して固く口を閉ざしていたが、怪しげなジャーナリストに声をかけられる。

話を聞かせて欲しい。アルバムも提供してほしい。五万出せる。


そんな話をされ、一度は断るものの、ジャーナリストは食い下がる。

君が話さなくてもどうせ他の奴が話す。

そんな奴らに金が渡るのは悔しくないか、と。



あまりにもリアルな臨場感。


たくさんの生徒たちが、吸い込まれるように校門へと向かっている。

みんな一様にうつむいている。

そこへ、レポーターの群れがマイクを突きつける。

そのような光景が、ありありと浮かんでくる。


「小説を読んでいる」というよりも「自分がその場に立って一部始終を目撃している」ような感覚すらある。


そして、そこまでのめり込むように読ませておきながら、最後はバッサリと終わらせているところがすごい。

初めて読んだときには「うわあああ、やられたあああああ!」と思った。

こんな終わらせ方、度胸がないとなかなかできないのではないだろうか。



この作品には、さまざまな問いかけが隠されている。


たとえば、「ジャーナリズム」について。

近年、マスコミというものは印象が悪くなる一方だと感じる。

そんなマスコミやジャーナリズムの在り方について、こう問われているように思う。


「ふむ。あんたは昨今のマスコミの在り方に問題があると思っているんだな。……それでは教えてくれ。あんたは一体どのようなマスコミだったら称賛するんだ?」


あるいは、情報提供者について。


「なるほど。マスコミにアルバムを提供する奴が許せないと? プライバシーの侵害だ、マスコミに餌をやるなと、そう言いたいんだな。……では、こういう状況ならどうだ? それでもあんたは奴らに情報を渡さないと言い切れるのか?」


あるいは、殺人について。


「一家殺害と聞いて恐いと思うのは簡単だ。だが、もし犯人が両親から長年にわたり酷い虐待を受けていたとしたら? 親を殺さねば自分が殺されてしまう、そのような状況だとしたら? あんたは大人しく殺されてやるとでもいうのか?」



この作品は「読み終えてから始まり」だと思う。

読後は、強烈な思考の嵐が吹き荒れる。


「この言葉を吐き出したBの気持ちは……」

「同じ状況に置かれた場合、自分なら……いや、でもなあ……」

「この記事、Aが目にすることは……」


などなど。ひたすら考え続ける。

正解はない。正解がないから考え続ける。自分なりの答えが見つかるまで考え続ける。


あなたは、この作品を読んでどのような答えを導き出すだろうか。

ハルカ⭐積読消化期間さん

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登録日:2021/7/10 22:05

こちらは ハルカ⭐積読消化期間さん が読んだ当時の個人の感想です。
詳細な事実については対象作品をご確認ください。

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