ユーザー登録・ログイン

新規登録

ログイン

作品

レビュー

登録/ログイン

その他

オノログについてFAQ利用規約プライバシーポリシー問い合わせユーザー管理者Twitter
レビューを投稿
書籍化
コミカライズ原作
ジャンル別
サイト別
サイト関連
運営している人

@オノログ

明るくカラッとした爽やかさのある、青春自殺ロードムービー

5.0
0

 唐突に「自殺に見えない自殺がしたい」という無理難題を吹っかけてくる親友に、不承不承ながらもその手伝いをする高校生の男子のお話。

  爽やかで前向きな日常系ライトミステリ、あるいは青春もののコメディ作品です。いわゆる「人が死なないミステリ」には違いないのですけれど、同時に結構しっかりしたドラマもあったりして、いろいろ詰まった贅沢な内容になっています。すんごい完成度。

 とっても面白かったというか、読んでいて「あれっ面白いじゃん?」ってなりました。いやこの言い方だとまるで面白くないのが前提のようにも見えてしまいますが、そうでなく。読んでいる最中の体感というか、思わぬところから予想外の面白さが来るんです。

 だって自分が読んでいるのは男子ふたりのちょっとおかしな掛け合いコメディのはずで、それがもうしっかり面白いんだからそれで完成しているはずで、だからこっちはそのつもりできっちり満足しているのに、でもあれっこのお話って〝そう〟でしたっけ? というような。実はミステリだったり実は現代ドラマだったりするところ。単品のハンバーガー頼んだはずがポテトとドリンクも付いていた状態。ぜいたく!

 いやもう、すごいです。出来がいいというか隙がないというか、仮にわざと粗や不満点を探そうとしても、たぶん何にも見つからないんじゃないか、という印象のお話。こうして言葉にすると簡単そうですけど、そうそうできることではないと思います。

 お話の筋はだいたい最初に述べた通りで、仲のいい高校生男子ふたりの物語です。より詳細には、顔はいいけど頭の残念な親友と、それを見つめる主人公のおかしな掛け合い。明るく楽しくコミカルなのはもとより、こいつらのこの関係性の、文章から伝わる手触りがとてもいい。

 本当に仲良いんだなこいつらっていうのが伝わってくるのと、あと本当に顔がいいんだな彼というのと、そしてそんな顔のいい男を思う主人公の心情がこう、全然ネトッとしない形でのびのび心地よく描かれていて、その自然な友情のありようが本当にたまりませんでした。

 あと単純に陽くん(顔のいい彼)の造形もいい。タグの「残念なイケメン」というのはきっと間違いではないのでしょうけれど、でもそのイメージとは少し軸の違う一面もあるというか、なんだか信頼できるところが最高でした。いやこんなのが身近にいたら充分憧れの対象ですよね、という、「残念なイケメン」タイプの人物には珍しい信用があって、なによりそれが主人公の視点(彼を見る目)によって生み出されている、というのも素敵。

 最高でした。言うことなしっていうのはきっとこういうことだと思います。本当に最初から最後まで、まっすぐ前向きな気持ちでただ楽しんだ作品でした。面白かったです!

和田島イサキ

登録:2021/12/13 20:12

更新:2021/12/13 20:12

こちらは和田島イサキさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

同じレビュアーの他レビュー!!

610 light-years Love

来世における巡り合いのお話(※語弊のある表現)

 約九十年の人生の締めくくり、間抜けな人生だと自嘲しながらも、でも満ち足りて往生するひとりの男性のお話。  しっとりと落ち着いた描写が胸に沁みる、切なくも優しい手触りの人間ドラマ、のようなSFです。ドSF。どうやってもネタバレになるというか、いやそもそもタグの時点で明かされてるも同然な部分なので〝そこ〟についてはもう気にせず触れてしまうのですが(困る人はいますぐ本編へ!)、シミュレーション仮説をモチーフにしたお話です。その辺りを端的かつ印象深く象徴しているのが、本作のキャッチである『あなたの愛する人は本当に実在するのでしょうか?』の一文。これ好きです。本編の内容を読み終えてからだと、より強く意味合いが強調されるような感覚(後述します)。  導入であるところの「九十年の人生」、それはすべて仮想現実だった、というところから始まる物語。宇宙船での星間航行中、どうしても持て余すことになる長い時間を潰すための、娯楽としての人生のシミュレーション。要は長い夢から覚めたようなもので、さっきまでの人生はすべて作り物でしかなかった、というのがこのお話の肝というか前提になるわけですけれど。  ここで面白いのがこの主人公、というか作中の人類全般のことなのですけれど、寿命が半永久的に続くんです。現生人類の人生一回分の時間くらいは、ほとんどあっという間の出来事。さすがに未来(千年後)の世界だけあって全然違うと、それ自体は特段なんてことはないのですけれど。  宇宙船のコンピュータによってシミュレートされた方の人生、それが千年前(作品外における現代)の世界であるということと、そして『シミュレーション仮説』というタグ。これらの意味するところというかなんというか、まあ要するにメタ的に見ることで作品の主軸とはまた別の妙味を上乗せしてくるという、この構造とそのさりげなさにニヤリとしました。あくまでも副次的に書かれている、そのお洒落というか上品な感じ。  さて、その上でその主軸、物語のメインとなるドラマなのですが。まんまとやられたというか綺麗に決まったというか、きっちり組まれた構造の綺麗さにうっとりします。単純にロマンティックないい話でもあるのですけれど、これ構造だけ見てちょっと見方を変えるなら、ある意味転生ものみたいなところもあるんですよね。いわゆる前世からの生まれ変わり、離れ離れになった運命の相手に再び巡り合うお話のような。王道であり古典でもあるその類型を、でもただSF的な設定の上に持ってきただけでなく、まったく違う手触りに変えてみせる。物語を自分の(作者自身の)ものにする、というのは、たぶんこういうことなのかなと思いました。  あと大好きなところ、というか絶対触れずにはいられないのは、やっぱり結びのあの一文。このサゲの爽快感がもう最高に好きです。伏線等も綺麗に回収しつつ、すべてがこの瞬間のために描かれた物語。とても綺麗で、しっかり壮大なSFでありながらも、その向こうから人の生を伝えてくれる素敵な作品でした。

5.0
0
和田島イサキ