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億千万のむくつけき益荒男どもの流星群

5.0
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 ひとり静かに勇者の到来を待つ姫君のもとに、誰よりも早く到達せんと、互いに競い駆け行く運命の元に生まれた数多の猛者どもの物語。

 寓話です。いや寓話なのか? こう、何かジャンル的な呼び名でもいいのですけれど、ちょうどひとことで表せる言葉がないような感じ。そういう意味で、この作品のジャンルとして指定されている「詩・童話・その他」というのはなるほどと思いました。童話に近いその他という感じ。

 タグの「マッチョ」が好きです。必見というか、読み始める前に必ず見ておくべきタグ。いや戦士たちの競争を描いた物語ということもあり、思想や信条としてのそれの意味もあるのですが、でも別の意味の方が強いと思います。筋肉美という意味のマッチョ。もちろん作中でしっかり戦士の描写はあるものの、でもこの単語を先に頭に入れておいた方が絶対イメージの助けになるというか、実際なりました。数億の空飛ぶ筋肉ムキムキマッチョマン。なにこの絵面のパワー。最高。

 紹介文にある「創世記」というのが言い得て妙というか、このお話自体がひとつの壮大な寓話のようなものなのですけれど、それを世界の成り立ちになぞらえる(というか創世の物語として描く)ところが面白いです。文字通りの大スペクタクル。己が宿命を果たさんと危険な道のりに挑む、その男たちの悲壮な覚悟を描いたお話で、世界の理のような大きな物語であるはずなのですが、でもストーリーそのものはミクロな個人の描写に立脚しているところが魅力的でした。姫と英雄、それに老兵と、そして若者。

 単純に英雄譚や創世の物語として読めるのですけれど、たぶん真剣に読み解いていくといろいろな解釈ができそうで、その場合のキーワードが先述の「マッチョ」なのではないかと思います。さっきは一旦置いておいた思想・信条の方。

 逃れることの叶わぬ戦場の中、名も実も残すことなく、ただ生まれて死んでゆくだけの無数の男。それを狭い鳥籠の中、できるのはただ眺めることだけで、手出しどころか身動きすら許されない女。それぞれに役割が固定されていて、交代も分担もまったくできない不自由さ。それを乗り越え辿り着いた先、彼や彼女の出した答え。説得力というかなんというか、厚みのある感動がありました。はっきりした『ゴール』の実感。

 凄かったです。ここが終着点で、そして新たな世界の始まる瞬間だというのがわかる、壮大なハッピーエンドのお話でした。いろいろ語りましたがやっぱりムキムキの男たちが好きです。ナイスバルク!

和田島イサキ

登録:2021/12/13 20:18

更新:2021/12/13 20:18

こちらは和田島イサキさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

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610 light-years Love

来世における巡り合いのお話(※語弊のある表現)

 約九十年の人生の締めくくり、間抜けな人生だと自嘲しながらも、でも満ち足りて往生するひとりの男性のお話。  しっとりと落ち着いた描写が胸に沁みる、切なくも優しい手触りの人間ドラマ、のようなSFです。ドSF。どうやってもネタバレになるというか、いやそもそもタグの時点で明かされてるも同然な部分なので〝そこ〟についてはもう気にせず触れてしまうのですが(困る人はいますぐ本編へ!)、シミュレーション仮説をモチーフにしたお話です。その辺りを端的かつ印象深く象徴しているのが、本作のキャッチである『あなたの愛する人は本当に実在するのでしょうか?』の一文。これ好きです。本編の内容を読み終えてからだと、より強く意味合いが強調されるような感覚(後述します)。  導入であるところの「九十年の人生」、それはすべて仮想現実だった、というところから始まる物語。宇宙船での星間航行中、どうしても持て余すことになる長い時間を潰すための、娯楽としての人生のシミュレーション。要は長い夢から覚めたようなもので、さっきまでの人生はすべて作り物でしかなかった、というのがこのお話の肝というか前提になるわけですけれど。  ここで面白いのがこの主人公、というか作中の人類全般のことなのですけれど、寿命が半永久的に続くんです。現生人類の人生一回分の時間くらいは、ほとんどあっという間の出来事。さすがに未来(千年後)の世界だけあって全然違うと、それ自体は特段なんてことはないのですけれど。  宇宙船のコンピュータによってシミュレートされた方の人生、それが千年前(作品外における現代)の世界であるということと、そして『シミュレーション仮説』というタグ。これらの意味するところというかなんというか、まあ要するにメタ的に見ることで作品の主軸とはまた別の妙味を上乗せしてくるという、この構造とそのさりげなさにニヤリとしました。あくまでも副次的に書かれている、そのお洒落というか上品な感じ。  さて、その上でその主軸、物語のメインとなるドラマなのですが。まんまとやられたというか綺麗に決まったというか、きっちり組まれた構造の綺麗さにうっとりします。単純にロマンティックないい話でもあるのですけれど、これ構造だけ見てちょっと見方を変えるなら、ある意味転生ものみたいなところもあるんですよね。いわゆる前世からの生まれ変わり、離れ離れになった運命の相手に再び巡り合うお話のような。王道であり古典でもあるその類型を、でもただSF的な設定の上に持ってきただけでなく、まったく違う手触りに変えてみせる。物語を自分の(作者自身の)ものにする、というのは、たぶんこういうことなのかなと思いました。  あと大好きなところ、というか絶対触れずにはいられないのは、やっぱり結びのあの一文。このサゲの爽快感がもう最高に好きです。伏線等も綺麗に回収しつつ、すべてがこの瞬間のために描かれた物語。とても綺麗で、しっかり壮大なSFでありながらも、その向こうから人の生を伝えてくれる素敵な作品でした。

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和田島イサキ