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全世界同時極楽往生RTA

5.0
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 いかにもなゲーム調ファンタジーの世界に、いかにもな手段で異世界転生した人が、いかにもな感じでメキメキ実力を身につけていく、のだけれど……? というお話。

 異世界ファンタジー、ではあるのですけど、でもそれ以上にというかなんというか、実はショートショートのような構造をした作品であるように思います。ある程度予定調和のようなものを前提とした形で始まり、きれいに捻って落とすところに面白味がある物語。つまりは上記の「のだけれど……?」の部分が肝で、ここにどれだけの意外性や諧謔味を持たせられるかがそのまま物語の面白みに直結していると思うのですけれど、まあ見事にやられました。まさかの。いや本当に凄まじいのがきました。

 というわけでこの先はどうあがいてもネタバレになりますのでご容赦ください。

 実はこれ見た目よりはるかに深いお話というか、まったく異なる二種類の教養を必要とする作品であるように思います。ひとつは『物語のテンプレートとしての異世界転生もの』の知識。そしてもうひとつはおそらく仏教の知識です。実はその、自分はこのどちらも中途半端にしか知らなかったりするので、作者がこの物語に仕掛けた面白味をどこまで受け取れているか、ちょっと自信がない部分もあるのですけれど(すみません)。とりあえずそれでも最低限、物語がとんでもない捻りを見せたのはわかりました。前編のラスト、突然の「世界を滅ぼす」宣言。

 まだこの時点だと急に悪堕ちしたようにも見えるのですが、さにあらず。幕間を読み終えると理解できるのですけれど、どうやら最初からそのつもりだったらしいということ。ここの機序というか動機というか、彼の考え方を形作るきっかけみたいなのが面白いです。

 たぶんこの救済というのは弥勒菩薩(あるいはそれをモデルにした何か。神だし)のことだと思うのですが、まさかタイトルの「ハピエン」がそこにつながっていくの!? という衝撃。なるほどいくらハッピーエンドが約束されていると言っても、それが六十億年後じゃ遅すぎるわけで、結果生まれたのが〝ハピエン厨〟であるところのこの主人公。死を救済としているのはもうこの際仕方ないとして、六十億年というのがしっかり効いたか、こだわりがその達成スピードにあるところ。おかげで彼が転生するたびに繰り返される、世界滅亡RTA。なんてこった。これ実質魔王よりよっぽどヤバいブツがあちこちの世界をハシゴしまくっているのでは? お願い弥勒パイセン早く来て!

 強烈でした。特に結び付近、彼のめっちゃ満足げな様子とかもう大変なことになっています。この落差と、そこに漂う皮肉な感じ。ブラックな結末が綺麗にショートショートしているというか、鋭く効いているお話でした。いつか彼に転生から解脱できる日の訪れんことを。

和田島イサキ

登録:2021/12/13 20:29

更新:2021/12/13 20:29

こちらは和田島イサキさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

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610 light-years Love

来世における巡り合いのお話(※語弊のある表現)

 約九十年の人生の締めくくり、間抜けな人生だと自嘲しながらも、でも満ち足りて往生するひとりの男性のお話。  しっとりと落ち着いた描写が胸に沁みる、切なくも優しい手触りの人間ドラマ、のようなSFです。ドSF。どうやってもネタバレになるというか、いやそもそもタグの時点で明かされてるも同然な部分なので〝そこ〟についてはもう気にせず触れてしまうのですが(困る人はいますぐ本編へ!)、シミュレーション仮説をモチーフにしたお話です。その辺りを端的かつ印象深く象徴しているのが、本作のキャッチである『あなたの愛する人は本当に実在するのでしょうか?』の一文。これ好きです。本編の内容を読み終えてからだと、より強く意味合いが強調されるような感覚(後述します)。  導入であるところの「九十年の人生」、それはすべて仮想現実だった、というところから始まる物語。宇宙船での星間航行中、どうしても持て余すことになる長い時間を潰すための、娯楽としての人生のシミュレーション。要は長い夢から覚めたようなもので、さっきまでの人生はすべて作り物でしかなかった、というのがこのお話の肝というか前提になるわけですけれど。  ここで面白いのがこの主人公、というか作中の人類全般のことなのですけれど、寿命が半永久的に続くんです。現生人類の人生一回分の時間くらいは、ほとんどあっという間の出来事。さすがに未来(千年後)の世界だけあって全然違うと、それ自体は特段なんてことはないのですけれど。  宇宙船のコンピュータによってシミュレートされた方の人生、それが千年前(作品外における現代)の世界であるということと、そして『シミュレーション仮説』というタグ。これらの意味するところというかなんというか、まあ要するにメタ的に見ることで作品の主軸とはまた別の妙味を上乗せしてくるという、この構造とそのさりげなさにニヤリとしました。あくまでも副次的に書かれている、そのお洒落というか上品な感じ。  さて、その上でその主軸、物語のメインとなるドラマなのですが。まんまとやられたというか綺麗に決まったというか、きっちり組まれた構造の綺麗さにうっとりします。単純にロマンティックないい話でもあるのですけれど、これ構造だけ見てちょっと見方を変えるなら、ある意味転生ものみたいなところもあるんですよね。いわゆる前世からの生まれ変わり、離れ離れになった運命の相手に再び巡り合うお話のような。王道であり古典でもあるその類型を、でもただSF的な設定の上に持ってきただけでなく、まったく違う手触りに変えてみせる。物語を自分の(作者自身の)ものにする、というのは、たぶんこういうことなのかなと思いました。  あと大好きなところ、というか絶対触れずにはいられないのは、やっぱり結びのあの一文。このサゲの爽快感がもう最高に好きです。伏線等も綺麗に回収しつつ、すべてがこの瞬間のために描かれた物語。とても綺麗で、しっかり壮大なSFでありながらも、その向こうから人の生を伝えてくれる素敵な作品でした。

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和田島イサキ