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まるで血の色みたいな恋

5.0
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 同性の先輩に恋心を抱く後輩の男性が、いろいろ雑談しているうちにその先輩の片耳にピアス穴を開けてあげることになってしまうお話。

 BLです。血がドクドク流れ出たままの生傷みたいな恋のありようを、これでもかとばかりにゴリゴリ叩きつけてくる恋愛劇。効いたというか刺さったというか、読み進めるごとに「オアアアアーーーーッ!」ってなりました。いーやーこれはつらい……どうにもならない強すぎる想いが、でもただの「片思いの切なさ」なんて概念では到底収まりきらず、湧き出るそばから全部自罰感情に変換されてゆく描写の痛々しさ。お、おい! 死ぬぞお前!? もういい休め!(休めません)(恋なので)

 いやもう、ほんと凶悪でした。文章は一人称体で、それも主人公であるコーヨーくんの心情にかなり密着したもの、どこか歌の歌詞を思わせるウエットな美しさを感じる文体(節回し)なのですが、だからこそビリビリ伝わってくるこの擦り切れるような痛み! その根源は明らかで、「(思いを悟られることにより)好きな相手から強く拒絶されてしまうことへの恐怖」だと思うのですけれど、でもなによりすごいのが〝それが直接的に書かれていない〟ところ。

 彼の意識はあくまで『平和な現状を壊さない』ことだけに向けられており、でもそこに過剰な怯えが付随しているという事実ひとつで、彼の真に恐れるものを描き出してしまう——というか、書かないことで彼の逃避(直接的に想像するのを避けていること)を著し、そこからその怯えと痛みの度合いを、ひいてはその想いの大きさを浮き彫りにしてしまう。この書き方、一人称体だからこそのアプローチが見事にはまって、一文一文の熱量が見た目の数倍に跳ね上がるような感覚。恐ろしい……もう劇物ですよこんなの……。

 実はお話の筋そのものは結構シンプルというか、作中で起こった出来事だけを切り出すのなら、とても短くまとまってしまうように見えます。それこそこのレビュー最初の一文がほとんどすべてで、でもそう気づいて逆に驚きました。このシンプルな出来事の中に、こんなにも強いドラマを埋め込んでくること。キャラクターの関係性や距離感、その機微の作り方と動かし方でこちらの情動をギュインギュイン振り回してくる、その繊細さから生まれる巨大な波に惚れ惚れします。

 ほぼ全編を通して感じる不穏さのような感覚、語弊を厭わず言ってしまうのであれば、主人公のコーヨーくんがわりと危うい惚れ方してるっぽいところが最高に好きです。想いが成就することへの期待が低すぎるのか、恐ろしくナーバスかつ不安定な状態になっていること。ふとしたきっかけで簡単によくない結末に転げ落ちて行きかねない、そんな苦しく細い道を歩き通してのこの結末。強烈でした。ただ一語で『恋』と呼ぶにはあまりにも苛烈な、なんだか『錆びた釘と剃刀で作った団子のような何らかの感情』みたいなものを飲み込ませにくるお話でした。美味しいよ!

和田島イサキ

登録:2021/12/15 18:28

更新:2021/12/15 18:27

こちらは和田島イサキさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

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610 light-years Love

来世における巡り合いのお話(※語弊のある表現)

 約九十年の人生の締めくくり、間抜けな人生だと自嘲しながらも、でも満ち足りて往生するひとりの男性のお話。  しっとりと落ち着いた描写が胸に沁みる、切なくも優しい手触りの人間ドラマ、のようなSFです。ドSF。どうやってもネタバレになるというか、いやそもそもタグの時点で明かされてるも同然な部分なので〝そこ〟についてはもう気にせず触れてしまうのですが(困る人はいますぐ本編へ!)、シミュレーション仮説をモチーフにしたお話です。その辺りを端的かつ印象深く象徴しているのが、本作のキャッチである『あなたの愛する人は本当に実在するのでしょうか?』の一文。これ好きです。本編の内容を読み終えてからだと、より強く意味合いが強調されるような感覚(後述します)。  導入であるところの「九十年の人生」、それはすべて仮想現実だった、というところから始まる物語。宇宙船での星間航行中、どうしても持て余すことになる長い時間を潰すための、娯楽としての人生のシミュレーション。要は長い夢から覚めたようなもので、さっきまでの人生はすべて作り物でしかなかった、というのがこのお話の肝というか前提になるわけですけれど。  ここで面白いのがこの主人公、というか作中の人類全般のことなのですけれど、寿命が半永久的に続くんです。現生人類の人生一回分の時間くらいは、ほとんどあっという間の出来事。さすがに未来(千年後)の世界だけあって全然違うと、それ自体は特段なんてことはないのですけれど。  宇宙船のコンピュータによってシミュレートされた方の人生、それが千年前(作品外における現代)の世界であるということと、そして『シミュレーション仮説』というタグ。これらの意味するところというかなんというか、まあ要するにメタ的に見ることで作品の主軸とはまた別の妙味を上乗せしてくるという、この構造とそのさりげなさにニヤリとしました。あくまでも副次的に書かれている、そのお洒落というか上品な感じ。  さて、その上でその主軸、物語のメインとなるドラマなのですが。まんまとやられたというか綺麗に決まったというか、きっちり組まれた構造の綺麗さにうっとりします。単純にロマンティックないい話でもあるのですけれど、これ構造だけ見てちょっと見方を変えるなら、ある意味転生ものみたいなところもあるんですよね。いわゆる前世からの生まれ変わり、離れ離れになった運命の相手に再び巡り合うお話のような。王道であり古典でもあるその類型を、でもただSF的な設定の上に持ってきただけでなく、まったく違う手触りに変えてみせる。物語を自分の(作者自身の)ものにする、というのは、たぶんこういうことなのかなと思いました。  あと大好きなところ、というか絶対触れずにはいられないのは、やっぱり結びのあの一文。このサゲの爽快感がもう最高に好きです。伏線等も綺麗に回収しつつ、すべてがこの瞬間のために描かれた物語。とても綺麗で、しっかり壮大なSFでありながらも、その向こうから人の生を伝えてくれる素敵な作品でした。

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和田島イサキ