ユーザー登録・ログイン

新規登録

ログイン

作品

レビュー

登録/ログイン

その他

オノログについてFAQ利用規約プライバシーポリシー問い合わせユーザー管理者Twitter
レビューを投稿
書籍化
コミカライズ原作
ジャンル別
サイト別
サイト関連
運営している人

@オノログ

幸せとは目に見えないもの

5.0
0

 不幸な目に遭ってばかりの少年が恋をして、でも不幸であるが故にそれを諦めようと奮闘するお話。

 というか、その半生を綴った手記、という形式の作品。実際、この世に生を受けたところからお話が始まっていて、でもメインはあくまで彼の初恋の顛末。つまり初々しく甘酸っぱい恋物語ではあるのですけれど、でもそれ以上に青春と成長の物語であるような気がします。

 といっても恋愛の比重が少ないとかそういうことはなく、むしろしっかり主軸になっていると思うのですけれど、でも実質的にはその恋によって何が起こったかこそが一番の要点というか、もうぶっちゃけてしまうのならこれは〝主人公が自分にかけられた呪いを解くお話〟ではないかと思います。

 タグで示された対照的なふたつの要素、「不幸体質」と「ハッピーエンド」。つまり不幸を書くことで逆説的に幸せを描き出すお話で、となれば畢竟、〝不幸とは何か〟という点は避けて通れません。このお話の主人公はいわゆる不幸体質、やることなすことすべてうまくいかない特異体質の持ち主で、それが故に性格がすっかり後ろ向きになってしまった——と、少なくとも序盤ではそのように書かれているのですけれど。話が中盤に差し掛かり、恋模様が描かれる段になると、なんだかだんだん「どっちかというと因果が逆なのでは?」という疑念が頭をもたげてきます。

 不幸が彼をネガティブに変えたのではなく、ネガティブが彼を不幸に誘っている。なにしろ目の前にあるとてつもない幸運、諦めたはずの恋の成就への入り口を、でもまったく信じようとしないわけで……こうなってくると前提であった「不幸体質」も怪しいというか、そこから逆じゃないかとも思えてきます。

 自分のことをついていないと思い、その認識に合致する出来事ばかりに目を向けているから不幸になる。自分で不幸ばかりを見るようにして、それ以外を勝手に不可視化している。ある種の偏向、あるいはバイアスのようなもの。つまりありもしない不幸を自ら現実にしているのだとすれば、この「自分は不幸である」という認識は、まさに呪いそのものとしか言いようがありません(もっとも、本当に運がない側面も多々あるっぽいのですが)。

 自ら作り上げた呪いの牢獄に囚われた主人公と、それを救い出す白馬の王子様。まあ伝統的・一般的なそれとは性別が逆ではあるのですけれど、でもそこがかえって魅力的でした。背が高くスポーツの得意な彼女と、それよりも小柄でしかも救いを必要としている彼。あべこべなはずなのに、でも絵面的にはむしろ似合うような気がするこの不思議。

 主人公自身のいうところによれば「自伝」、つまり彼自身の書いたものという形式が好きです。中でも特に最高だったのが最後の結びの部分。手記であるからこそ書かれない(ぼかした)ものが際立つ、というのもあるのですけれど。でもそれ以上にこの最終盤、どこまでが手記なのかあやふやだと解釈できるところ。ずっと使われなかったカギカッコ、少なくとも単体の会話文としての用法は一切なかったそれが、でもここにきて急に(そしてやっと)使われていること。こういうところに仕込まれた想像の余地が、なんだかとても楽しい作品でした。

和田島イサキ

登録:2021/12/15 18:30

更新:2021/12/15 18:29

こちらは和田島イサキさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

同じレビュアーの他レビュー!!

610 light-years Love

来世における巡り合いのお話(※語弊のある表現)

 約九十年の人生の締めくくり、間抜けな人生だと自嘲しながらも、でも満ち足りて往生するひとりの男性のお話。  しっとりと落ち着いた描写が胸に沁みる、切なくも優しい手触りの人間ドラマ、のようなSFです。ドSF。どうやってもネタバレになるというか、いやそもそもタグの時点で明かされてるも同然な部分なので〝そこ〟についてはもう気にせず触れてしまうのですが(困る人はいますぐ本編へ!)、シミュレーション仮説をモチーフにしたお話です。その辺りを端的かつ印象深く象徴しているのが、本作のキャッチである『あなたの愛する人は本当に実在するのでしょうか?』の一文。これ好きです。本編の内容を読み終えてからだと、より強く意味合いが強調されるような感覚(後述します)。  導入であるところの「九十年の人生」、それはすべて仮想現実だった、というところから始まる物語。宇宙船での星間航行中、どうしても持て余すことになる長い時間を潰すための、娯楽としての人生のシミュレーション。要は長い夢から覚めたようなもので、さっきまでの人生はすべて作り物でしかなかった、というのがこのお話の肝というか前提になるわけですけれど。  ここで面白いのがこの主人公、というか作中の人類全般のことなのですけれど、寿命が半永久的に続くんです。現生人類の人生一回分の時間くらいは、ほとんどあっという間の出来事。さすがに未来(千年後)の世界だけあって全然違うと、それ自体は特段なんてことはないのですけれど。  宇宙船のコンピュータによってシミュレートされた方の人生、それが千年前(作品外における現代)の世界であるということと、そして『シミュレーション仮説』というタグ。これらの意味するところというかなんというか、まあ要するにメタ的に見ることで作品の主軸とはまた別の妙味を上乗せしてくるという、この構造とそのさりげなさにニヤリとしました。あくまでも副次的に書かれている、そのお洒落というか上品な感じ。  さて、その上でその主軸、物語のメインとなるドラマなのですが。まんまとやられたというか綺麗に決まったというか、きっちり組まれた構造の綺麗さにうっとりします。単純にロマンティックないい話でもあるのですけれど、これ構造だけ見てちょっと見方を変えるなら、ある意味転生ものみたいなところもあるんですよね。いわゆる前世からの生まれ変わり、離れ離れになった運命の相手に再び巡り合うお話のような。王道であり古典でもあるその類型を、でもただSF的な設定の上に持ってきただけでなく、まったく違う手触りに変えてみせる。物語を自分の(作者自身の)ものにする、というのは、たぶんこういうことなのかなと思いました。  あと大好きなところ、というか絶対触れずにはいられないのは、やっぱり結びのあの一文。このサゲの爽快感がもう最高に好きです。伏線等も綺麗に回収しつつ、すべてがこの瞬間のために描かれた物語。とても綺麗で、しっかり壮大なSFでありながらも、その向こうから人の生を伝えてくれる素敵な作品でした。

5.0
0
和田島イサキ