一読すれば分かるように、冒頭と末尾で同じ楽曲が使われている。
あるアイドルに提供した、主人公の手による曲だ。それが出発点であり、到達点となる。
物語の基本的な形は、「ホビット」や「指輪物語」のような「往きて還りし物語」であるという。
むかしむかしに主人公が家を出て、冒険の旅をして、導師の導きや仲間の手助けで苦難を乗り越え、目的を達成して、家に戻ってきた時にはひと回りもふた回りも成長している……というひとつの類型だ。
味志ユウジロウさんの本作も、見事にこれに当てはまる。
タイトルから連想するイメージ、作中で南国に「雪」をどう降らせるか? といった展開がややファンタジーであっても不自然さを感じさせないのは、作品が物語構造になっていることも影響しているのかもしれない。
だが、本作はよくある「退屈な現代版おとぎばなし」ではなかった。
それは異国情緒あふれるダナン(ベトナム東部沿岸の都市)という舞台が、挫折したミュージシャンの逃避行を立派な冒険に格上げしているからかもしれないし、導師である姉やヒロインのミーという魅力的な登場人物を配することで、読者の気を引くことに成功しているからかもしれない。
ストーリーの基調は明るく現実的で、清潔感がある。主人公の身に降りかかる衝撃的な出来事や、読者の予想を大きく裏切る展開はない。それでいて読者を惹きつける世界観には、どことなく「青いパパイヤの香り」に描かれたサイゴン(ベトナム)の風情と共通するものがあるように感じた。
作者は「日本とベトナムを結ぶ作家」を目指すと標榜しているが、この作品の出来栄えを見れば、もうすでに「なっている」と言ってもよいのではないだろうか。
仕事と挫折、夢、恋愛を絡めたヒューマンドラマがどう展開するかについては、読者ご自身で確かめていただきたい。
きっと、ダナンという街に行ってみたくなるだろう。
登録:2021/12/25 10:56
更新:2021/12/26 09:16