きみは剣闘士(グラディエーター)が一人、険しい山を登っているのを見るだろう。
生まれたときから闘うことだけを叩き込まれた無教養な明るく素直な男だ。
彼はドラゴンを倒す為に隠された扉を開き、荘厳な建物「ルナテミス」で出会うのだ──滝の落ちる崖、蒼天を見渡す巨大な露天風呂に!
いや、すまない。
偏屈で取り付く島もないが、色素が洗われたようなプラチナブロンドの、小柄な美しい男と運命の出会いを果たすのだ。
彼は麓の人間たちに「隠者のビショップ」と呼ばれているが、もちろんそう名乗った訳ではない。
非常に長寿で、人ではないが、彼自身自分がどういった種族か知らないのだ。
ある意味で無垢な二人の男が出会い、物語は始まる。
ところで、この話にわたしが熱狂するのには訳がある。
設定厨にはこたえられない、隅々にまで行き届いた世界構築がここにあるからだ。
加えて用語の数々。
意味のある熟語に載ったルビは、大好物なのであるが、この物語にはそれが連打される。
「リオン」「セイズ」「セイドラー」「ガルド」「ガルドル」……
カタカナでもおよそは理解できるそれが、熟語に載ったとたんに発する、あの魔力のようなイメージはなんだろう。
それがなければ形容することの叶わぬ世界がここにある。
覚えなければ意味が分からないとか、ハードルを上げる体のものではなく、「この世界の常識なので」と、素で言われるような言葉使いなのだ。
ところで、この話はBLであるので、極端に嫌がる方にはオススメしない。
可哀想だな、と思って口をつぐむだけだ。
ただ言えるのは、たまたま性別がそうであるというだけで、彼と彼は愛し合う運命なのだ。
物語は「隠者のビショップ」と呼ばれる男の正体や、元剣闘士の男が辿る数奇な運命、また同種族との遭遇や、遺跡による発見など、ざっと何百年単位の時が流れるため、歴史ロマンにもあふれている。映画にして見たい場面が随所に配されていて、詳しい方なら推しの俳優を当てて想像してしまうだろう。
本当に映像化して欲しい。
性別を超えた愛も差別もここにある。
全米よ、一緒に愛を感じないか?
登録:2021/12/31 17:36
更新:2021/12/31 16:45