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@オノログ

鯛から逃げたい

作品詳細
新人研修以来、仲良くなった先輩とのサシ飲みの席。 楽しい時間は、刻一刻と変化していく……。 ※拙作「生存権っておいくらですか」より抜粋

何より怖いもの、それは

5.0
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 冒頭の先輩との和やかな居酒屋でのやりとりは、美味しそうな雰囲気が伝わってきます。しかしそれはあくまでも前菜であり、主人公がじわじわと追い詰められていく感じが興味深いです。

 既に調理された鯛が望んでここにやってきたのか、……鯛が望んで食卓に並ぶでしょうか。食物連鎖の中に組み込まれているとは言え、自ら選んでここにいるわけではない。

 先輩の言い回しが一風変わっており、面白いです。一見して陽気な先輩の様子の中に、底知れぬ怒りを感じました。先輩がどこまで本気なのかわからず、主人公の未来はとても不安定に思えます。そんな曖昧な恐怖が良い味を出し、物語を美味しく調理しています。

 おばけの出てこないホラーと伺っていましたが、おばけよりも人の心が恐ろしい。そう感じました。

想田スイさん

登録日:2022/6/21 15:27

更新日:2022/6/21 15:26

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こちらは想田スイさん が読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

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呪いのメイズさん

少女の成長と友情を描く青春ホラー

 もし恐怖がひとを変える力を持つとしたら、  これは、恐怖、という体験を通してひとりの少女が勇敢さを得ていく物語です。  今回はネタバレは避けながらのレビューにはなりますが、それでも事前情報を得ることで作品に対する印象が変わる場合もあるとは思うので、未読の方はご注意ください。  転校初日、〈わたし〉こと瀬戸深月は変な夢を見る。彷徨った生垣の迷路の先に見つけた洋風の立派なお屋敷、その庭に小学生三、四年生くらいの幼い女の子がいて、メイズと名乗った女の子に友達になって欲しい、と言われる夢だ。そして新しい中学校生活がはじまる中で、〈わたし〉はクラスの中心的存在である宮島真珠からこの辺りで知られる変わった占いについて教えられる。質問に答えてくれるメイズさんの占い。夢に出てきた女の子と同じ名前だった。以降、〈わたし〉は道案内に、テストの答えに、とメイズさんの占いに頼るたびに、その占いは未来のことまで百発百中になりクラスから一目を置かれるようになり、不審に思った真珠から問い詰められて……、  と本作の導入はこんな感じで、「メイズさんの占い」という言葉だけを聞くととても可愛らしいですが、徐々に表していくメイズさんの本性は、とてつもなく怖い。  中盤以降、容赦のない恐怖が展開されていくので、あんまり怖いのは……、という向きには気軽に薦められませんが、その代わりホラーと聞くと涎が出る向きには、こんな文章を読んでいる暇があったら、さっさと作品へ行け、と言いたくなる内容になっています。途中から、深月とメイズさんとの意外な関わりやメイズさんの起源が明るみになっていくことで、ぼやけていた輪郭がくっきりしてきて怖さが増してくるような感覚があります。  そしてホラーの怖さを盛り上げる要素として、この作品には人間関係の魅力もあるのですが、登場人物同士の距離感やパワーバランスが事件や出来事によって歪に変化し、元ある形が崩れていく様が、胃がきりきりとしてきて、この嫌な感じが素晴らしい(褒め言葉です)。  ただそんな恐怖と嫌悪の果てに、ひとりの少女が友情を育みながら、成長していく姿があり、青春の物語として後味の良さが残るのもすごく心地良くて、怖いのが大丈夫なひとならば、ぜひとも読んで欲しい作品です。

したいのぼくら

青から橙へ

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叫ぶ家と憂鬱な殺人鬼

すれ違いが産む恐怖。真実を知ったとき新たな展開が⁈

【物語は】 とても面白い始まり方をする。なんと変わった視点から物語は始まっていくのである。しかしこれは序章とあることからも、大事な発端と言える。何故呪いの家となったのか、その発端が描かれているのだ。発端を読み、本編を読み進めると、すれ違う”心理”とは実に面白いものだなと感じるだろう。ホラーの中にユーモアを感じる物語。一体、この先どう展開されていくのだろうか? 【主人公と家と友人】 確かにこの物語はホラーであり、サスペンスではあるのだが、前述したようにユーモアがあり笑ってしまう部分もある。しかしそれは、突飛だから面白く感じるのだと思う。笑いというのは、限度を超えた時に起きやすいからである。 つまり、想像を超えるという意味合いだ。 この物語は、家の叫びの意味を知る読み手、意味を知らない主人公たちというバランスによって、怖さと面白さが入り混じっている。これは日常でも起こりうることであり、コメディに使われている技法の一つでもあると思われる。 それはどういうことかというと、”森のくまさん”という歌に例え、考えていただくと分かりやすいだろう。くまは落とし物を届けたい一心なのに、主人公はくまに襲われると思い、逃げようとする。つまり善意と恐怖で想いが噛み合わなくなった時、それはホラーであり、すれ違い系のコメディは産まれるのではないだろうか。 このようなタイプのすれ違いがこの物語の中でも起こっている。そのため、怖いけれど笑えるという部分もあるのだ。 【世界観・舞台の魅力】 世界観設定がしっかりしていて、独創性にすぐれた作品である。 小説の設定や世界観説明は、丁寧なことに越したことはないと思うのだが、あまり丁寧過ぎても読み手の気持ちがダレるということが起きる。早く本題に入ってよ、という状況のことである。 しかし、この物語というのは丁寧に描かれているのにも関わらず、そのようなことは起きない。むしろ、どんどん話にのめり込んでいく。 それは人物の設定や世界観がしっかりしているからであると思われる。 この物語での主要人物は二人。 一人は、主人公であり呪いの分かる人物。そして幽霊の見える主人公の友人。この二人がタッグを組んで、事件に向き合っていく物語。 設定がとても変わっており、片方だけの時の状態と二人で力を合わせた時で、できることが違うように感じた。力を合わせることにより、その個々の能力(?)が活きてくるのだ。 【ミステリーもののような進み方】 事件の紐解き方が、ミステリーものと同じように論理的である。すなわち、とても分かりやすいということ。しかも一ページの文字数が、意外と多いことに気づいて驚く。あっと言う間に一ページが読めてしまうからである。とても巧い話の流れであり、展開の運びであり、飽きさせない物語だなと感じた。 【物語の見どころ】 すでに呪われていて、不運に見舞われている主人公が、更に呪いの家に呪われるところから展開されていく。 序章では、何故呪いの家となったのかがすでに明かされているスタイル。物語が進むにつれ詳しく明かされていくのである。 そしてこの家が、自分を呪った(?)目的に主人公が気づいた時、物語は新たな展開を見せていく。これはとても面白い構成である。 通常呪う方が人間の場合、話を聞くという流れになるのことが多いと思う。しかし、この物語では家というものが対象なため、自分で原因を探っていかなければならない。 物語は事件を紐解くために、更に深みを増していくのだ。その紐解かれ方は淡々としたものではなく、ドラマで再現のようなスタイル。全体的に飽きのこない物語だと感じた。 この事件を解決に導くことになる二人は個性豊か。そして主人公がとても論理的であるため、モノローグの部分が非常に分かりやすく、のめり込みやすい。 あなたもお手に取られてみませんか? 主人公は自分にかかった呪いを解くことができるのか? 何故、家は呪いの家となってしまったのか? その目で是非、確かめてみてくださいね。お奨めです。

7丁目の美人

謎めいた存在に感じる、美しさと表裏一体の恐れ

浮気された女性が、浮気相手を呪うお話。もしくは、謎めいたたばこ屋のお姉さんの物語。 人を呪わば穴ふたつというか、呪い版『猿の手』みたいな筋だと思うのですが、なにより魅力的なのはやはり終着点のスッキリしなさ加減。いや物語自体はきっちり終わっているのですが、でも読後に胸の奥にこびりついて離れない、なにやらドロドロとした黒い後味。 はたして、この結末は良かったのか悪かったのか? 一体、どうなっていたら最善といえたのか? この辺りをいつまでもぐるぐる考えさせられてしまいます。 失われたのはふたつの命。迷惑なストーカーの命と、生まれる前の赤ん坊の命。それぞれ「望んで消したもの」と「二番目に大切なもの」。しかし、そこに前提として「一番大事なもの」が据えられているおかげで、いやがうえにもその意味が引き立ちます。 ――はたして自分は、そこに無意識のうちに順列をつけていなかったか? エグいです。読後、しっかり腹に残る割り切れなさ。ずっしりと胸に刺さりました。

水切り

ほの暗さの先に、かすかな光彩が見える。

 異界の裂け目から差し伸べられた手に引かれるように、気付けば読み終えていました。  小説を読んでいて、どんな時に、〈しあわせ〉な感覚を得るでしょうか? それはもちろん読者それぞれによってまったく違う答えが返ってきて、それこそが小説の自由なわけですが、私は物語が言葉でできていることを実感させてくれる小説に出会った時に、そういう想いを抱く場合が多いように思います。小説は言葉でできている。実際に言葉にすれば当たり前のようにうつりますが、物語を読んでいる際中に、改めてその事実を実感する機会は、(すくなくとも私にとっては)そんなに頻繁にあるものではありません。まぁ何が言いたいか、というと、私にとって本作はそういう嬉しい気持ちを思わず抱いてしまうような作品だったわけです。  過去の後悔や罪悪感といった心情が混じるほの暗く複雑な心情に、静かな恐怖が重なります。淡々と怖さや哀しみ、不安が綴られる先に、切ない情景とかすかな光彩が見えて、その余韻に浸っていたくなる作品です。物語にとけこむその文章の佇まいがすごく好きで、それは物語の導入をここで紹介したところで、伝わるものではなく、伝える自信も私にはありません。  なので、こんな紹介文を読んでいる暇があるなら、ぜひ作品を読んでください。導入の文章の感触を心地よく感じたならば、言葉をたゆたう楽しみが、きっと待っているはずです。

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