冒頭の先輩との和やかな居酒屋でのやりとりは、美味しそうな雰囲気が伝わってきます。しかしそれはあくまでも前菜であり、主人公がじわじわと追い詰められていく感じが興味深いです。
既に調理された鯛が望んでここにやってきたのか、……鯛が望んで食卓に並ぶでしょうか。食物連鎖の中に組み込まれているとは言え、自ら選んでここにいるわけではない。
先輩の言い回しが一風変わっており、面白いです。一見して陽気な先輩の様子の中に、底知れぬ怒りを感じました。先輩がどこまで本気なのかわからず、主人公の未来はとても不安定に思えます。そんな曖昧な恐怖が良い味を出し、物語を美味しく調理しています。
おばけの出てこないホラーと伺っていましたが、おばけよりも人の心が恐ろしい。そう感じました。
登録:2022/6/21 15:27
更新:2022/6/21 15:26