「蝶を吐く」という、それだけで妖艶かつ幻想的な画と、蝶吐師オリエの魅力。
それらが憧憬や嫉妬や虚勢といった心の有り様を芯として描かれる物語と、美しいハーモニーを織り成していました。
冒頭の蝶を吐くパフォーマンスから、読み手をぐっと引き込む美しい雰囲気が作られています。
薄く開いた口から蝶の翅の鮮やかな色が覗く様がとても艶めかしく、物語への期待が膨らみました。
オリエの人物造形もとても魅力的です。
才能のある人間特有の傲慢さと、だからこその愚直さ、そしてその裏にちらつく脆さが、序盤からありありと伝わってきました。
そういう彼に、一番近いところから憧れを抱く語り手の心に、読み手がはっきり寄り添えるくらいに、オリエが魅力的に描かれていたところが、また素晴らしいです。
その語り手であるジェラが、カマラという女性の登場で揺らぎ始め、そこから彼の心が少しずつ見えてくるところがポイントでしょうか。
胸にしまっていた気持ちから、自身さえ気づいていなかった本心までゆっくりと読み手を誘ってくれます。
そして、その過程がとても切ないです。
ですが、迷っていた、悩んでいたのが彼だけでないのが分かった瞬間が、私には最も切なく愛おしく感じられました。
オリエが独りよがりとも言えるような自身の思いをぶつける瞬間。
誰かの中で一番でありたいと思う彼らしい傲慢さと、けれどきっとその「誰か」は誰でもいいわけではなくて、彼の中で大切な人物にだけ抱く彼なりの愛情なのだと感じられました。
感情の種類は違っても、お互いに大切に思いあっている二人の、けれどこれ以上一緒にいられないという現実が、切なかったです。
それでもそういう悲しさだけで終わらなかったのも良かったです。
そのトリガーとなるものも、きちんと提示されていて、納得のいく変化でした。
後は、はじめは憎まれ役とも思われたアジャイが、強欲(というか商売人)ではあるけれど決して悪人ではなく、それなりの器の大きさを持ち合わせた人物だと感じられたのも嬉しかったです。
登録:2021/7/12 09:42
更新:2021/7/23 17:15