きんきらきん、という無垢なイメージの言葉が、けれど、これでもかといういたみを伴って発せられるその感じに、心をつかまれました。
きらきらしているものを羨み妬む心のやり切れなさが、ものすごい破壊力を持っていて、最初に「きんきらきんだねぇ」と口にした、擦り切れたわらじを履く名前もない男の心に、ひどく気持ちを揺らがせられたように思います。
だからこそ、物語の中で起こってしまった悲劇にも、ただ犯人が憎いと言うよりももっと、複雑で悲しいような思いがわいてきて、やはりやりきれない。
ストーリーは、途中復讐の方向に向かうのかとも思わせつつ、そうはならないところが、個人的にはポイントなのかなと思いました。
恨みを晴らす、というありがちな方へ向かわずにも、読み手を満足させる仕掛けがなされていたと思います。
そして、最初に差し出された「きんきらきん」にまつわる色んないたみを、最後までずっと大事にされていて、きんきらきんであることも、きんきらきんを外から眺めることも、どれも辛いのだということが、広い視野からよく表現されていたと思います。
そして、それぞれのいたみをいとおしむようなラストは心が震えるようでした。
登録:2021/7/12 09:53
更新:2021/7/23 17:15