ストレートだったはずなのに、男友だちから告白されたことによって揺れ動き出す主人公の感情が、とても丁寧に描かれた作品です。
ちょっとした感情の機微から感じられる気づきや不安やときめきが、ゆっくりと変化していくこころ模様を表していて、読みながら主人公の内面へ入っていくことができます。
植え付けられた常識から、最初は同性愛に対する嫌悪感に駆られてまうけれど、それが変化していく様がとても丁寧に綴られていました。
孝弘が将来の夢を語る場面は、とても感じ入るものがあります。
主人公が漠然と考えていた「将来」と孝弘が語る「将来」。
全然ちがうけれど、後者の幸せな未来を想像できてしまう。
けれど、読み手には、前者は簡単に手に入れることができるけれど(彼の場合縁談がうまく行きそうなので)、後者は決してそうではないと分かっているので、そこに大きな切なさを感じました。
常識的な「将来」とそうではない「将来」の間で揺れる感情のリアルな感じがとても良かったです。
主人公いたしかたがないの弱さ、ずるさというのがきちんと描かれていたのも好きでした。
恋人になるのは怖いけれど、親友は失いたくない。
大切なものを守るためと思い込もうとしつつ、本当は常識から逸脱するのが怖かっただけ。
そういうところに、しっかりとした洞察があって、読んでいてハッとさせられます。
とても素敵な作品です。
登録:2021/7/12 18:19
更新:2021/7/23 17:15