今より少し未来の日本。
巨大な船上に作られた実験都市オルカで、新人の監察官、百目鬼 由佳は探偵業を営む呪術師と出会う——。
全体としては非常に緻密で硬質な文章でシリアスなシーンが語られているはずなのに、随所で飛び出す絶妙な言葉の組み合わせと登場人物たちの突飛な台詞回しで、気がつけば思わず爆笑してしまうという不思議な作品です。
呪術を使って事件解決をサポートする探偵をはじめ、登場人物たちは語り手の由佳を含めて、(本当にびっくりするほど!)圧倒的な個性を秘めています。
前半はどちらかというと軽妙な語り口で笑いを誘われ、テンポよく展開する物語に引き込まれますが、だんだんと江破の素性に関わる部分が明らかになってくることで、否応なしにその運命に巻き込まれていく仲間たち。
それだけでなく、登場人物一人ひとりの抱える心の闇というか——縺れた人と人との関係性が丁寧に描かれています。
ともすれば、読んでいるこちらの胸にまで重くのしかかりそうなそれを、けれでも、彼らはお互いにほどよい距離でそれを時に見守り、時に支えることで、重苦しくなりすぎず、暖かな希望をまだ感じさせてくれます。
後半からは、いよいよ姿を明確にした邪悪な敵との戦いが始まり、江破さんの軽やかさは変わらないものの、次第に緊迫感が高まっていき、そして、映画のようなクライマックスへ。
ラストは、ああ……と思わず声が出てしまいました。これしかない、という見事なエンディングだったと思います。
何を書いてもネタバレになってしまうのですが、最後まで本当にわくわくどきどきできる作品でした。ぜひ、結末まで皆さんに読んでいただきたいおすすめ作品です。
登録:2021/7/12 21:56
更新:2021/7/23 17:15