ユーザー登録・ログイン

新規登録

ログイン

作品

レビュー

登録/ログイン

その他

オノログについてFAQ利用規約プライバシーポリシー問い合わせユーザー管理者Twitter
レビューを投稿
書籍化
コミカライズ原作
ジャンル別
サイト別
サイト関連
運営している人

@オノログ

ヤクザ事務所の、あの劣悪な生活が、忘れられない

5.0
0

語り手の「俺」(五郎)は、亮太、裕也(と一雄)と共にヤクザ事務所から逃亡し、亮太の実家の蕎麦屋に住み込みで働いています。

特別、不自由なこともなく、ダラダラ仕事をサボりながら、それなりに生活していますが、「俺」はなかなかヤクザ事務所での生活を忘れられず……。

 

嫌気が差して逃亡してきたはずだったのに、ヤクザ事務所のことが、そこでの劣悪な生活や人間たちのことが、忘れられない、というのがたいへんよく伝わってきました。

 

カラスが真っ赤に染った夕の空へ帰っていく様には、不穏さ、禍々しさがありながら、一方では語り手自身がネオン煌めくヤクザ事務所への帰郷を望んでいるような気配をうかがわせます。

青く広い空の元で気持ちよくタバコを吸っても、蘇ってくるのはシケモクを吸わされていた頃の記憶。

捕まって銃殺される幻覚を見ても、恐怖にかられるどころか、死んだようだった心に活力が満ちてきてしまうほどです。

語り手の心の芯は、あの生活に染まってしまっている、あの世界の中でしか生きられない、というのが本当によく分かりました。

 

心地よい平穏な暮らしに溶け込めない、溶け込むふりも上手くできない、そういう様子が感情を排したドライな文体から滲んできて、その行間にはなんとも言えない虚無感、やりきれなさ、そういったものが詰まっています。


友情という湿っぽい言葉は似合わない、逃亡仲間との関係も好きです。

仲良しではないし、お互いのことをよく知ってさえいないけれど、みすみす見殺しにもしたくない、という感情がリアルで、水びたしでない所がとてもいいなと思いました。

 

会話の節々におかしみがあるのも、それぞれのキャラクターがよく出ているのも、良かったです。

やり取りを読んでいて、こういう会話も人も、どこかに存在しそうな気がしました。

 

ラスト、最後まで見せないところも、余韻があり、語彙力がないので上手く言い表せませんが、すごくかっこ良かったです。

ぞーいー

登録:2021/7/13 08:42

更新:2021/7/23 17:15

こちらはぞーいーさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

同じレビュアーの他レビュー!!

踊れ、踊れ、フラミィ

少女の成長と人々の心が、魅力的な世界を通して描かれた素晴らしいファンタジー

泡に守られるようにぷかりと海に浮かぶ美しい島。 老婆の姿の踊りの女神、ルグルグによって守られるこの島は、踊りを愛し、踊りを神に捧げる習慣があります。 けれど島の踊り子フラミィは、他の踊り子のように上手く踊ることができず、とうとうある事件により、踊ることを禁止されてしまいます。 悲嘆にくれる彼女の前にルグルグ婆さんが現れ、老婆の体ではなくフラミィの若い体が欲しいと言います。 けれど、ルグルグ婆さんはフラミィの足の親指の骨が欠けていることを発見し、そのために上手く踊れなかったのだと分かります。 フラミィはルグルグ婆さんに言われるまま骨探しを始めますが、そんな折、外の世界から一人の若者が飛行機に乗ってやってきます。   フラミィをはじめ、骨探しを手伝ってくれる弟分のタロタロや島に興味津々の若者パーシヴァル、島で最も優れた踊り子で高慢なエピリカ、フラミィのママ、島の長・オジーなど、様々な人々の心に触れながら、物語は島の、フラミィの、世界の深部へと読み手をいざなっていきます。   魅力的なところがありすぎて、何から書けばいいのか分からなくなりますが、中でもまず触れたいのが、人々の描き方です。 主人公のフラミィは心根の優しい少女だけれど甘ったれなところもあり、エピリカは意地悪で高慢に見えるけれどその心は外からはかり知ることが出来ないほど深淵にまで続いています。 フラミィのママの娘への愛情は分かりやすい優しさや信頼として表れてはいませんが、それが確かなものであることもしっかりと感じ取れますし、善良なパーシヴァルの内にも島や世界に対する複雑な思いが垣間見えます。 女神ルグルグ婆さんでさえ、とても人間味があり、利己的な(そして面白い)老婆かと思いきや内側には優しさも秘めています。 決して、人々は一面的には描かれていません。 彼らは多角的に、けれど優しさと理解を持って描き出されています。 そこから、物語の深さとそこで息づく者たちへの愛情を感じ、たいへん心惹かれました。   独特の世界観も、もちろん特筆に値するもので、踊りの島の風習やそこで信じられている神々の存在、生き物たち、広がる景色、全てが美しく優しく時に残酷で、魅力にあふれています。 その世界で動くキャラクターがいきいきと、ありありと目に浮かんでくるのは、筆力もさることながら、しっかりと構築された世界観と生きる人々の姿がしっかり呼応しているからでしょう。   物語もたいへん素晴らしいです。 フラミィの成長物語としてみてももちろん十分に読み応えがありますが、それに留まらず、島に伝わる神話や秘密、生き物、巡る命の不思議、そしてフラミィを取り巻く一人一人の心全てが見事に繋がり重なり一つの物語を織り成しています。   このお話を読めて幸せだったと思える作品でした。

5.0
0
ぞーいー

雨の国

語り手を通し、「異国の地」を敬意を持って描いた作品

かなり前、恐らく8〜9年くらい前に読ませて頂いた作品ですが、今でも心に残っている1作です。 というか、この作者さんの作品は大抵心に残っています。 冒頭から丁寧な描写で、ゆっくりと物語に引き込んでくれます。 語られる雨の国の素朴な生活や人々の描写も興味深かいものでした。 こういう風に、その土地そのものや、そこで生きることの意味をしっかり作品から感じられるところが本当に素敵だなと思います。 それに、何より、仕方なしに生まれていったしきたり、考え方を否定するような結末にならずに、逆にその土地で培われた少年や少女の優しさや強さがラストから感じられて、とても良かったです。 最終的に肯定にも否定にも結論をつけられない主人公の立ち位置も良く、主人公ではなく、主人公を通して「異国の地」を描いているという印象の作品です。 そのおかげで、読み手も偏った見方ではなく、ある種、その多くの風習に敬意を持って読めるのが、いいな、とも思いました。 ラストに垣間見える希望、未来への期待も心地よかったです。 個人的にはイアン君が好きでした。 やさしそうじゃないのにやさしい男の子って、いいなと思います。 読ませていただいたことを感謝したい作品です。

5.0
3
ぞーいー