愛と苦悩を秘めながら過ごした何十年という月日の孤独が、3500文字の中にしっかりと込められていて、素晴らしいです。
作中には「僕」の思いがギュッと詰まっているのですが、特に「アナタの、僕との枝分かれの先に咲いた、花」というのがひどく刺さりました。
赤ちゃんをかわいいと、美しいと、神々しいとさえ思うけれど、それは自分と「アナタ」の間のものではない、というそこに大きな孤独が見えた気がします。
赤ちゃんの手を引いて「アナタは孤独じゃない」と語るその裏に、「僕」自身の孤独が感じられ、「僕は孤独だ」と直接書かれるよりもずっとずっとその孤独の重さが伝わってきたように思います。
そうしてそれが葬式の場面にも繋がっていき、気づけば「アナタ」はたくさんの子どもや孫に囲まれていて、そこに「僕」の入る隙間がない。
長い月日、共有できなかったものの重さが感じられました。
けれど、ここに孤独が極まったかに思えた時、「僕」が吐き出した蝶がとても鮮やかに作品を色づけてくれました。
枝の先に美しく咲き誇った花たちとは違う、二人だけの愛の形というのが鮮烈に視覚化されていましたし、それまでの長く深い孤独の先に描かれたからこそ、ささやかでもとても切なく印象的でした。
また、「僕」が可哀想なだけでなく「アナタ」の両親が亡くなったことを密かに喜んだり、赤ちゃんに対して皮肉めいたことを言ったりと、感情の生々しさが見えたのも、良かったです。
リアルな感じが強まって、より語り手に寄り添えた気がします。
最後に、私は「ブロークバック・マウンテン」という映画が好きなんですが、この作品を読んで、なんだかちょっと思い出しました。
ホモフォビアが当然の社会の中で、カウボーイ同士のの二十年に渡る愛を描いた作品なんですが、題材だけでなく、長い月日の重さと苦悩が近い気がして…。
映画オタクなので、好きな映画を彷彿とさせてくれたという意味でも、とても心に残る作品でした。
登録:2021/7/13 09:11
更新:2021/7/23 17:15