まるで青春そのもののような作品。
この物語は、高瀬という極度に人見知りな少年と、本屋でバイトをする心優しい真衣香という少女が、バーチャルアイドルを通して次第に心を通わせていく青春小説です。バーチャルアイドルに馴染みのない私でもすらすらと入ってきて、夢中になって読み進めてしまいました。
高瀬の持つ二面性や、真衣香と高瀬が段々と距離を縮めていく過程はもちろんのこと、それぞれの登場人物の背景や関わりまで細やかに描写されており、青春小説として非常に完成度が高い作品です。また、主軸となる二人の交流のほか、真衣香とその親友の里穂のバイト先での奮闘、オズワルドの配信やライブの空気感など、読んでいて飽きないシーンが盛りだくさんで、ただ甘いだけの恋愛小説ではなく、高校生のリアルとしての物語だと思いました。
私が個人的に心に残ったのは、高瀬に想いを寄せており過激なアプローチをする岡野さんの闇に触れた部分です。狂人にも見える彼女のその内なる感情は、この作品にほろ苦いエッセンスとして加わり、より深みのある物語へと昇華されています。また、彼女に敵意を見せることなく、その闇に気付いて助けようとする真衣香をより一層好きになるシーンでもありました。
私にとってこの作品は、『思い出したくなる』物語になりました。ぜひ本棚に大切に置いておきたいような、素敵な作品です。