平成(令和でなく)から昭和、それも太宰治や中原中也といった名だたる文豪が登場する昭和初期へのタイムスリップ・ストーリー……なの、です、が、そう一言で纏めてしまうと、非常に軽薄で書き手に申し訳ない気がするのはなぜでしょうか。
それは、私の個人的な感想となりますが、特に第三部になって深まる、各登場人物が共鳴することで醸し出す「人の業の重さ」「人生の皮肉」にあるのかなと。
そして、そこに至るまでの、主人公や文豪、その他の登場人物の肉付けの厚みは、そのまま物語の厚みに繋がっていて、ただのタイムスリップものにはない説得力と、凄みを醸し出しています。
さらに、時代考証も非常にしっかりしており、読んでいるとまるで自分も昭和初期に生きているかのよう。
そんな、徹底して作り込まれた世界観と、文脈から、書き手のこの作品に賭ける執念のようなものを感じ取るとき、「これはものすごい作品を手にしてしまった」と思わずにいられないのです。
登録:2021/7/14 09:38
更新:2021/7/23 17:15