胸が熱くなり心揺さぶられる、群像劇ダークファンタジー戦記。
そして種族の垣根を超えた親子の愛情を知る物語です。
ゲル状の生物に人外転生した男主人公。
彼は終始一貫、人化はしません。
動きは鈍く、発声もできず、とても弱く生まれた魔物です。
1作目はめちゃくちゃざっくりいうと、主人公が『清廊族』という人間に虐げられている『異種族の少女』とともに生きる話です。
こちらには百合要素がないので、苦手な方でも安心して読めると思います。
弱肉強食の世界も、その場にいるようなジメッとした空気感も、もちろん登場人物も、みんな魅力的でした。
ゲル状の特性を活かして苦境に負けず、試行錯誤して生きる姿には応援する気持ちが強くなります。
魔物が少女に対して少しずつ愛情を覚えて、甲斐甲斐しく世話をする姿は愛おしくて穏やかな気持ちになりました。
2作目は『清廊族の少女』を中心に、より激しい戦記になります。
色濃い百合も数多く含まれます。
読み進めるたび、つらく苦しいのにみんなが愛おしくなり涙が溢れ出ました。
過去も後悔も葛藤も全部ひっくるめて立ち止まることなく歩み続ける女性たちの姿はとても眩しいです。
伏線や魅せ方も上手く、胸が熱くなる活劇、愛があり、世界観も丁寧に作られています。
群像劇ならではの人物描写のおかげで、よりこの世界に没入できました。
作品のあらすじからはどんな物語か読み取りにくいですが、私は丁寧に作り上げられる世界観に惹きつけられました。
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すでに「小説家になろう」では2つとも完結しています。
現在は『加筆修正・合併版』として「カクヨム」で連載中です。
話の軸となる主人公は変わりますが、ぜひ続けて読んでほしいです。
とても大切なものが深く繋がってるニコイチ作品です。
・1作目 全48話(約12万字)
「ゲル状生物に生まれ、這いずり泥を啜って生きた物語」
・2作目 第六幕が連載中(現在約130万字)
「戦禍の大地に咲く百華」
個人的には『異種族間交流』『人外転生』『百合』『呪い』『葛藤』『暗躍』『ジャイアントキリング』といったキーワードがお好きな方にオススメしたいです。
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※ここから下は、各作品への感想を交えたレビューです。
お時間のある方はぜひお読みください。
とても長いですが、作品への愛を込めています。
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▼1作目「ゲル状生物に生まれ、這いずり泥を啜って生きた物語」
序盤は人外転生した男主人公が『ゲル状生物』としての特性を理解し、どのようにして生きていくのかという過程がしっかりと描かれます。
この物語で大切なことは『主人公が一切人化しない』ということです。彼は言葉を介したコミュニケーションができません。
そして人間に虐げられる『清廊族』の少女と出逢ってからが本番です。
ここまではじっくり下ごしらえをしていたのです。
凄惨な過去を持つ少女はゲル状生物を『母さん』と呼び慕い、彼もまた絆されるようにして少女に愛情をそそいでいきます。
二人は会話こそできないものの、互いを思いやり穏やかな日々を過ごします。
しかし彼らの住処に、強大な力を持つ人間たちがやってきたことで物語は急転します。
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文庫本1冊ほどの文量なので、夜のお供にいかがでしょうか。
部屋を少し暗くして、ジメッとした洞窟の中にいるような気分で読んでみると面白いかもしれません。
もしくは、夜空が綺麗な日でも良いかもしれません。
私は寝る前に少しだけ読もう……と、深夜に手を出したため眠れませんでした。あれは雨の日で、物語とどこかシンクロするような環境だったことをよく覚えています。
あと私はこういう異種族間の愛情を垣間見られる物語がとても好きです。
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▼2作目「戦禍の大地に咲く百華」
物語の中心となる『清廊族』は、自然や魔物たちと共生する長命な種族です。
あるとき別大陸からやってきた人間たちに呪術を用いた『絶対服従の首輪』を嵌められ、100年以上にわたり奴隷として扱われ続けます。
自死することすらできず、まるで家畜のように繁殖させられ、尊厳を傷つけられてきた彼ら彼女らに明日への希望はありません。
しかし魔物とともにあった少女が『人間を殺すことで強くなれる』特異な力を得たことで、細く険しい道が拓けます。
この大地から人間を消し去ると決意した少女は、少しずつ仲間を増やしながらその力を分け与え、ともに旅を続けます。
故郷を、自由を、誇りを取り戻すために、幾度も困難を打ち破っていく清廊族。
憎しみから戦場へ身を投じた少女ですが、その終着点は復讐を果たすことではありません。
愛しいとはなにか。
求めたものはなんだったのか。
これは知るための物語です。
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いきなり百合キスシーンから始まります。
人によっては驚き怯むかもしれませんが、これは大切なシーンなので引いて帰らないでください。お願いします。
メインの登場人物は女性ばかりで、男性は敵にしかいません。
これは清廊族が人間、特に男性からひどい仕打ちを受けてきた背景があるため、同族であっても男性に忌避感を持っているという納得の理由があります。
なので仲間になるのは女性だけです。
女性しかいないとなれば、そこで成り立つ関係に百合の香りがただようのは致し方ないことです。
群像劇ならではの視点から、実にさまざまな百合が描かれます。百合は良いものです。
とある少女は地獄に等しい場所から救ってくれた人にとても依存し、自分のものにしたいと暗躍します。
いびつで熾烈な愛情は、この物語のトリックスターとして際立っています。
さらに、人間に捕まって隷属させられた少女たちや、生まれたときから虐げられてきた少女たちの歪みが、いろんな仄暗い百合につながっていきます。
もちろん敵サイドにも百合があります。
百合だけではない、多種多様な愛情も随所に見られます。
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しかしそればかりが注目点ではありません。
この物語は群像劇で、ダークファンタジーで、戦記なのです。
戦闘シーンは白熱し、手に汗握る展開が数多くありました。
少数の弱者がいかにして強者を打ち破るのか。
知恵を絞り連携を取り、ときには天候さえも味方につけ、そして成し遂げるジャイアントキリングは爽快感があります。
群像劇であるため、清廊族も人間もどんなことを考えて行動しているかがよく分かります。
敵である人間は、別大陸のいろいろな国家の思惑で新大陸を開拓し自分たちの領土にしようと画策しています。
同じ種族だからといって一枚岩ではないことがよく伺えますし、誰もが『主人公』になれるだけの人物だということが丁寧に描かれています。
いろんな立場の人の考えや背景を知ることで、私はよりこの世界観に没入できました。
そしてダークファンタジーゆえの重苦しさ。
人によっては強いストレスを感じる展開が序盤から続きますし、つらく苦しいことは最初から最後まで何かしらあります。
しかし清廊族の少女たちは、どんなときも決して生きることを諦めません。
選んできた選択肢が最善のものばかりではなくても、後悔することがあったとしても。
清廊族が人間に虐げられることなく、誰もが自由に幸せに生きられる大地を取り戻すために。
そして一人ひとりが求め、願った未来を手にするその日まで。
少女たちは立ち止まることなく戦い続けます。
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▼最後に
個人的に好きなシーン。
「ゲル状生物」は、はじめて二人で見上げた夜空。
「戦禍の大地」は、第一幕ラストの見下ろす大地。
どちらも印象的で、情景を思い浮かべられて好きです。
思い返してみると一番印象に残っているものが対照的で驚きました。
余談ですが、私の推しは敵として登場する二人です。
マルセナとイリアの、歪んでいてどこか切ない関係性から目が離せず、最初から最後まで私の心を掴んで離しませんでした。
百合はよいものです。
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※2021/07/14 投稿
※2021/07/18 更新(微修正)
登録:2021/7/14 11:25
更新:2021/7/23 17:15