主人公のシダルは、「秘境」とまで呼ばれる辺境に住む狩人。不思議な力を持つ為に、閉鎖的な村に馴染む事が出来ず、孤独な日々を過ごしていたが、ある日、神託によって「勇者」に選ばれ、世界を救う為の旅に出る事になります。
と、こう書くといかにも王道な展開で、確かに王道ではあるのですが、王道の面白さに加えて、一味違った美味しさがあります。
まず、旅の仲間。
お花畑が何よりも似合う、浮世離れした美しきエルフの魔法使いは、莫大な魔力を持つのに、手先が不器用過ぎて魔法陣が上手く描けません。
素晴らしい治癒の腕前を持つ神官は、虚弱体質で、体力も運動神経もゼロ。
吟遊詩人は、人の見えないものを視ることが出来るけれど、豊かな感受性のせいで、暴力や流血が死ぬ程苦手。
お前が魔王か、と言いたくなる見た目の、人間嫌いで潔癖症な賢者は、知識は豊富なのに魔力が少なくて、実戦に向かないという有様です。
けれど、戦闘に向かない仲間に振り回される勇者の、不憫さを楽しむ物語、ではありません。何故なら、勇者は、彼らのお陰でとても幸せな旅を送る事になるからです。
次第に明らかになっていく使命の重さや、対立する神殿勢力との熾烈な闘いは、生半可なものではありませんが、彼らが築いていく絆の深さが、そのまま彼らの力になり、彼らを救うのです。
あと、勇者シダル。彼は本当に、本当に、本当にイイ奴。彼というキャラクター自体が、とにかく一味違うのです。私は、ちょっと捻くれたタイプのキャラが好きになる事が多いのですが、まさかこんな真っ直ぐな性格のシダルがお気に入りになるとは思いませんでした……。
これぞファンタジー、という様な幻想的で美しい風景も、世界観も素晴らしいです。地下の国から地上へ、海を渡り、砂漠を抜け、山を越え、まるで本当にこの世界を旅しているかのような気持ちになりました。
学校の図書室に並んでいてもおかしくない、正統派ファンタジーです。
登録:2021/7/16 21:52
更新:2021/7/23 17:15