短編:5,000字 読了目安:10分
あなたは誰にも追いつけない素早さがありますか?
もしくは誰にも負けない迫力がありますか?
あるいは誰にも押し出されない力強さがありますか?
むかしむかし、ある村に紅緒という娘が暮らしていました。彼女の描いた絵には不思議な力がありましたけれど、それ以外は何処にでもいそうな普通の村娘です。
紅緒の住む村には、五色に輝く五色池から流れる小糸川というのがあり、夏が近付くと雨も降っていないのに氾濫するそうです。それを治めるため、五色池に住む龍へ村の娘を捧げており、今年は紅緒の番だそうな。
池までの案内にはカラスが現れるのですが、その色も変わっています。なにせ五色に輝く池へ向かうわけですし、もしかしたら深い意味が込められているのかも。
やがて龍と対面した紅緒は三つの勝負をします。しかし、その勝負は素早さや迫力、ましてや力強さに自信のある龍にとって有利に思えます。
ここで始めに書いた三つの質問を思い出してください。
一つでも持っているのなら素晴らしいことですが、水神様と崇められる龍を前にしたのなら、とても誇る気にはなれないと思います。
残念ながら紅緒には三つともありませんけれど、彼女の描いた絵には不思議な力があります。
ぜひあなたの目で、紅緒と龍との勝負の行方をたしかめてくださればと。
ところで大修館書店の明鏡国語辞典によれば、「緒」という漢字について「細長いひも」の意味の他に、「長く続くもの」というのがあるようで。
紅緒は負ければ自分を食べるという龍を前にしても怖がりません。自分のできることを活かし、果敢に龍へと挑みます。
私には紅緒が不思議な絵の力の他に、決して諦めない心の強さを持っているように思いました。それが彼女と出会う天女をも勇気づけ、二人が手を携えて編まれた物語は、末永く読んだ人の心に残り続けることでしょう。
登録:2021/7/16 23:23
更新:2021/7/23 17:15