一話を読んで、この物語が「純文学」に分類されていることに頭を捻った読者も多いだろう。ラノベのテンポのような会話劇。コメディチックな進行。「そして神崎さんをオカズにオナニーをして一日を終えた」と〆られる下劣さ。
主人公は品の無いサイコパスにしか見えないし、ヒロインはどうせテンプレの高慢系ツンデレしか見えない。しかし、会話劇に終始する一話の中でも、その軽妙洒脱な会話の駆け引き、ギャグセンスは目を見張るものがあり、カデゴリ―エラーの作品かな、と思いつつも私は読み続けることにした。
私は驚愕した。お約束を繰り返すラブコメ調の進行を繰り返しながら、慇懃無礼にサイコパス気味の発言をする主人公の海老村君が話を追う毎に厚みを増し、その内面の揺るぎの繊細さ、少年らしい人間味を獲得してくるではないか。
骨が肉をつけ人の形になる様を見せられるような、独特のキャラの膨らみ。これは確かに純文学だ。
登録:2021/7/10 01:03
更新:2021/7/23 17:15