本作は競走馬に転生した男性が主人公ですが彼の主観で語られる事は少なく、周囲の視点を通して物語が進む群像劇です。 人によって好みが分かれる部分でしょうが個人的には良い意味で神様転生要素が薄い作品です(※転生自体は作中で重大なポイントです)私は「現代が舞台であまりに現実離れした主人公は浮いててちょっとな……」と感じる事があるのですが、そんな私でも気にならずに読み進められました。 主人公を管理する調教師や騎手が変な馬だとは思いつつもその力を信じ、勝利の為に試行錯誤する姿は素直に応援したくなります。 群像劇と評したように主人公サイドだけでなくライバルサイドの描写も豊富で、それが本作の魅力の一つです。 様々な出自とファンの夢や期待を背負った馬達。そんな馬を愛し、勝たせる為に努力を惜しまない関係者。 競馬という競技の性質上、一度の戦いで決着がつくわけではなく幾度となく激突しますが、その過程で主人公だけでなく相手にも負けてほしくないと感情移入してしまいます。 ライバル達が一堂に会するレースがあるのも競馬ならではの醍醐味でしょうか。 他にも魅力はありますがネタバレになりそうなのでとりあえずここまで。 競馬小説という取っつきにくそうなジャンルの作品ですが、使った時間に見合う面白さはあるのでぜひこの機会に一読を。
・大まかな展開がすぐに予想できてしまい、1話ごとの文字数が少ないこともあって、読みごたえがなく物語をつまらなく感じさせる要因となってしまっている。 ・最後の「彼女」のシーンは必要だったのか。せっかく50話もかけて主人公が「彼女」の代わりに幸せを掴んだというのに、その「彼女」に画面の外から「自分が本物の聖女だ」と主張させることに何の意味があるのかわからない。せめてそこから「彼女」がこちらの世界で幸せを掴むならまだ分かるが、物語はそこで終わってしまったのである。序盤に「彼女」の不幸を嘆いていた主人公の思いはどこへ行ってしまったのか。このシーンさえなければ月並みにハッピーエンドで終われたのに、ただただ残念に思う。