将棋にはまって冷たくなった夫に少しでも近づく為、新妻が健気に将棋を勉強するという月9のドラマでありそうなお話……と思ったら、繰り出されるラノベチックな設定や展開の数々。 勢いのままにエキセントリックなキャラクターがかき乱して来たり、少年漫画のような熱さがあったり、ホロリと来る展開があったり……と思ったらやっぱりラブラブしたりと、感情をとにかく揺さぶられます。 まるで戦型や局面によって様々に味わいを変える将棋の対局のように、様々な面白さが詰め込まれながらも互いに引き立て合っている素晴らしい作品です。 文体も読みやすく、対局の展開も雰囲気で楽しめるように考えられているので、将棋に詳しくない方にもおすすめです。
少女は想い人のそばにいる。 少女は想い人を追いかける。 少女は想い人の死の覚悟を受け入れる。 少女は想い人の死を信じない。 少女は想い人になっていく。 少女の心の闇にスポットをあてながら、ただ一つの目的に向かって突き進ませる。 様々な人々の言葉が少女の心の底の感情をすくい上げる。 それは少女にとって闇そのものか。それとも光たりえるか。 心理描写が見事の一言だったわ。 気がつけば主人公の己の内なる心への言葉に惹きこまれていくの。 秀逸な人間ドラマ。是非一度お読みいただきたいわ♥
美しい物事を実現するため、醜いことに手を染めながらも這いつくばって前進していく、人間のリアルな姿を描いた物語。淡々とした俯瞰的な文が、逆に物語の彩度と没入感を高めていると思います。 治療薬が無く、発症した人体に触れれば感染する疫病がはびこり、罹患者は人と見なされない世界。そんな中、薬の元となる花が発見され、人や国家の行方が変わり始めます。花を見つけて薬が作られるまでの第一章、見え始めた希望が暗雲に閉ざされる第二章、か細いながらも確かな光が射す第三章。長い時間をかけ、生きるため生かすために走り、転んでも這って進んでいく人間の美醜が、丁寧に描き出されます。 すぐそばに人々の息遣いや足音を感じながら、誰かのために花が開く最後まで、ぜひ読んでみてください。